第四回配信『【頑張れ私!】説明回だよ、全員集合!』




 今日も元気に、お腹いっぱい元気いっぱい、ごはんを食べよう!

 クチーナ・アルコバレーノ、アランと、

 ヴィオラでーっす!!


 はろはろ〜、というテンションでもないんだよね。

 ちょっと、前回が、衝撃的展開すぎて、誰もが説明を求めていると思うので、まずは説明から行きましょう。

 今回は、もう、ずっと説明回! ちょっと退屈かも知れないなー、という人は、飛ばしてもらっても大丈夫ですよー。

 大丈夫かな?


 今回の舞台は、主に、(美)少女たちの宇宙船です。

 では、行ってみましょう!


「要するに、あなた方のいた星は、銀河連邦から、追放されたんです」

 メイド服の木下が、説明する。

 惑星が崩壊して、すでに半日以上がたちました。

 全てのものが未知である三人は、宇宙船の内部を案内され、部屋もあてがわれた。

 盗みに入った街の高級ホテルがなんだったのかというくらいの、広くて清潔で高級感のある部屋だった。ベッドがふかふかで、三人は、身体が沈み込む感覚に極楽浄土を感じた。

 故郷の星が爆発したばかりだというのに、縁起でもないね。とはいえ、今いるところの方が天国なのかも知れず、しばらくの間、理性と感覚がうまくマッチングしなかった。

 今は、船のラウンジで、みんなでお茶を飲みながら、ようやく落ち着いて状況を整理し始めていました。

「世界は滅亡する」それは、一〇○〇年前に予言された言葉。

「これは、一〇〇○年前から警告されていたことです。銀河連邦は、惑星ピルスナの地上の王国たちが、やれ魔王だモンスターだと何かと戦いばかりで、あまりにも野蛮でそれをやめなければ、隕石をぶつけて滅ぼすと何度も警告を送っていたわけです。それなのに、警告を無視するだけでなく、戦士の数を増やし、より一層武力を強化するばかりで、何も改善されなかった。そこで、一〇○〇年前の警告通りに、隕石を衝突させた」

「警告?」

 アルトの疑問に、ケルシュが首肯する。

 ケルシュは、すでに、ある程度の察しを付けているが、アルトはまだよく分かっていなかったみたいです。

「状況から推察するに、そちらの惑星の文明が未発達だったため、送られた通信を受信することができず、勘のいい人の夢の中などに映像が少し流れる程度だったようなんですが……」

 つまリ、予言者たちは、これを予言していたのです。

 銀河連邦からの警告。

 予言者と呼ばれる人たちの夢の中にその映像が現れても、誰もその意味を理解することができなかった。その結果、間違った理由、すなわち「魔王によって滅ぼされるので、国が勇者を召し抱える必要がある」と王様に進言していた。

「つまり、あの予言は、魔王によって世界が滅ぼされる、とかじゃなくて、隕石が衝突して国どころか、星ごと滅亡するって言う意味だったんだな」

 何も改善しなければ、隕石をぶつけて滅ぼすぞ、というメッセージを、正確に受け取ることができず、むしろ、曲解してしまっていた。

「じゃあ、勇者ってなんだったんだよ!? あいつら、世界救ってないじゃん」

 アルトの疑問は至極ごもっとも。だけど、

「何もかもが分かりません。だって、全部なくなってしまったから」

 世の中何でも答えがあるわけではないのです。

 そして、勇者と言えば——

「ポロ……」

 ケルシュに限らず、いなくなった人たちのことを考えると、しんみりしてしまいます。

 アルトにしても、勇者フォルクス……のことは特に好きでもなかったかも知れないけど、カワイイ魔法使いやキレイな戦士には、ちゃんと好きな気持ちがあったはずなのだ。

「あの星から生き延びたのは、あなた方三人と、格納庫にいるお馬さんだけです」

 馬車は、木下が宇宙船内の格納庫に置いておいてくれることになりました。

 ひひーん。馬がいなないた。

「ちょっと待ってちょっと待って。理解が追いつかない。てことは君たちは、何者なの? どこでどうやって、俺たちのことを知ったの?」

 ケルシュが、今更というような質問を発した。言われた方も、そういえば、という感じ。

「勇者様たちは、銀河では大人気なんです。ご存じないんですか?」

 ご存じのわけはないと思うけど、

「お嬢ちゃん。いや、リング・リングだっけ? 俺達はね、その銀河とやらもよく分かってないんだ」

 アルトが不用意に発言するもんだから、しばらく、銀河について説明を受けた。

 要するに、宇宙には無数の星があって、アルトたちがいた惑星ピルスナもまた、一つの星でしかなく、銀河の中では、ちっぽけなちっぽけなゴミみたいな存在だということ。

「要するに、銀河の中では、こうやって小さなゴミが、人知れず追放、崩壊させられているということか」

 よくよく考えたら、大きなお世話だと思う。

「そして私たちは、太陽系第三惑星の地球と呼ばれる星からやってきた、地球人です」

 と、ボリショイが言う。

「つまり、宇宙人か」と、ちゃんと講義を理解したケルシュ。

「ええ、地球人です」と、リング・リング。

「つまり、宇宙人だな」と、いまいちよく分かってないけど、アルト。

 禅問答みたいになっているので、木下がまとめました。

「いずれかの星から観測すれば、全ての生命体は宇宙人でけっこうです」

「理解が面倒くさい」

 ヴァイも、いまいち理解が仕切れていないけど、大体でいいんです、こういうのは。

「で、その何万光年も離れた地球の人が、なんで僕たちのことを知ってるんですか?」

 すでに、「光年」という単位についても理解をしているケルシュが、問い質しました。

 光の速度を理解することは、物理の根本です。

 しかし、世の中の少女たちにとっては、物理よりも面白いことがあるのです。それが、

「GxyTubeです! めっちゃ面白いんですよ!」

 GxyTube=ギャラクシーチューブ。

 銀河の動画配信サイト。録画編集した動画を、誰でも自由に配信することができる、銀河一の人気コンテンツ。

 実は、この数年、ヴァイたちが劇場で行っていた公演の様子が、銀河中に配信されていたのです。配信というのがいまいちよく分かっていなかったので、リング・リングに端末を操作してもらって、記録映像を配信サイトで見ることができました。

 そこに、ヴァイのスキルで、彼らの動画が配信されていたのです。


 スキルとは、ジョブや適正とはまったく関係なく、ただただランダムに割り振られるものです。

 で、今問題になるのは、ヴァイのスキルです。

 配信の映像を見て、ヴァイは驚きました。これは、ヴァイが「録画」していた映像だったからです。これは、自分しか見られないはずなのに。

 ヴァイが持っているスキルは、「記録」。これは、自分を中心に、「現実を映像記録として残しておくことができる」というもの。ただし、この映像は、ヴァイの認識では、自分しか見ることができないものでした。だから、自分自身の体験を、あとで自分で反芻するためだけの映像として保存するもので、閲覧自体は自分でいつでも可能だが、そもそもその映像を他人に見せることは、このスキルにはできなかった。

 でも、実は違った。この銀河は、光子エネルギーという動力で、全てがまかなわれている。この宇宙船も、銀河連邦からの通信も、武器や防具、日常生活用品に至るまで、全て。小さなものだと、ライターまで。

 その光子エネルギーで伝えられたものを、予言者たちは受け取っていたので、その逆も活かすことができていたのが、まさにこのスキルだったのです。

 このスキルで録画したヴァイにとっての個人撮影動画は、銀河中を覆っている光子エネルギー通信によって、銀河に勝手に拡散し、受信装置があれば、誰でも見ることができるものになっていたというのです。

 もちろん、惑星ピルスナの国では、受信設備がなかった。だから、誰も気づかなかった。発信している本人すら。

 でも、銀河では子どもでも持ってる当たり前の端末で、受信が可能。その動画が、公演の度に配信され、その映像の中に広がる、あまりの中世的な世界観と、相互交流をしてくれないクールさに、カルト的な人気になっていたらしい。

 そして、その映像を見て、ボリショイとリング・リングは、ヴァイたち三人を本物の勇者と思い、スカウトにやってきた、ということなのです。


「お前、そんな便利なスキル、内緒にしてたのかよ」

 アルトがそう揶揄するが、

「いいでしょう、別に。大して役に立つスキルでもないし。自分一人の日記のつもりだったのに……恥ずかしい……!」

 そもそも、自分しか見られないと考えると、どれだけ頑張ったって、役に立たない外れスキルであることは間違いないと思われる。

「GxyTubeの動画は、再生回数が多いと、それに応じて収益金がもらえるはずなんですが、どうなんでしょうね」

「金!? お金もらえるのか?」

 リング・リングの疑問に、アルトが過剰に反応する。

「この動画、銀河中で人気なので、かなりの金額もらえるはずですよ」

「いえ、配信者が収益化の登録をしてないと、ダメですね」

 木下は常に冷静。クール上等。

「登録しよう! 今しよう!」

 アルトは暑苦しい。

「おまえは、お金が動くと元気になるな」

「銀河にも、カジノ、あるよね?」

 あるとの言葉に、ケルシュのみならず、みんな、呆れた。


 呆れはしたけど、せっかくなので、乗船して三日目。

 木下に設定してもらって、ヴァイたちはチャンネルを正式に開設、生配信をしてみることになった。

 今度は、ヴァイのスキルではなく、宇宙船の中にある機材を使っての、ちゃんとした配信。

 木下が、カメラを構える。なんだかんだで、付き合ってくれる有能。

「え、これでいいの?」

「えっと、どうもー」

「アルトです」

「ケルシュです」

「世界一の勇者でございます」

『違うだろ!』

「抜け駆けすんなよ!」

「僕だって、勇者って名乗りたかったんですう」

「ふざけんな! だったら、俺も勇者!」

「醜いなあ。いいか? もう俺達の世界はなくなってる。勇者だなんだと、そんなことに言及する方が恥ずかしい」

「面目ない」

「分かってくれたらいいんだ。改めて、僕の名前は、宇宙一の勇者ケルシュだ。よろしく」

「おいいいいいい!」

 ただ三人でぐだぐだとだべっているだけだったけど、なんと、このしょうもない『勇者チャンネル』の初配信がウケた。

 どうも、宇宙の星々にはいろんなタイプの知的生命体がいるらしいけど、共通して、ヒューマノイドタイプのイケメンは、人気があるらしい。加えて、文明が発達した銀河の国々からすると、原始的(いわゆる中世ファンタジー世界的)な世界観の服装などをしているだけでも、人気があった。

 つまり、全てにおいて見た目がよければ、銀河だろうと人気者になれる。

 気を良くしたアルトたちは、地球へ行くまでの間に、何回も生配信した。


「じゃあ、前回集めたリクエストで一番多かった企画、やりますね」

 仕切りは、なんとなくヴァイが務めることになった。

 もう慣れている。

「愚かなる人類よ。怒れ、叫べ、泣け、喚け! すべては、恐怖の魔王アルト様の下僕となるのだ」

「勇者ヴァイ=ツェン。助けてくれ!」

「そうはさせるか! 正義の勇者ヴァイ=ツェン参上! とうっ!」

 ヴァイが、ジャンプして、

「そこまでだ、魔王アルト!」

「来たか、勇者ヴァイ=ツェン。だがしかし、今日は貴様の命日だ!」

 アルトが、ヴァイに剣を振りかざして、攻撃する。ヴァイが、悲鳴を上げて倒れる。

「くそう。やるな。光の賢者ケルシュ! 力を貸してくれ」

「もちろんだ!」

「くっ! 我が闇の魔法を破って、闇の賢者が光の賢者になるなんて!」

「僕は自由だ! ゆくぞ、魔王アルト!」

「うあああああああ! やめだやめだ!」

 と叫んで、アルトが、ケルシュとヴァイを殴る。

「何すんだお前は!」

「魔王なんてやだ! やっぱり勇者をさせてくれー!」

 あんまり勇者役をやったことがないヴァイに、勇者をやってほしいという、リスナーからのリクエストに、応えてみた。格納庫を、簡易的な舞台にして。

 実は案外、配信人気では、ヴァイが一番高かったらしい。背が低くて、少し可愛らしい顔立ちなのがウケるみたいだと言われた。

 ヴァイは照れてるけど、悪い気はしていない。

「リクエストしてくれた人、ありがとー!」

「ちくしょうううううううう!」

「本気で泣くなよ」

「やり直しを要求するうううううう!」


 宇宙の旅は、暇だった。

 別の日に、本当に意味のない企画もやった。

「今日は、大食いチャレンジです! 果たして、勇者たちは、どれほど大食いできるのかー?」

「なんか、地球のヤーパンというところの名物料理らしいんですが、次々に運ばれてきます」と、ケルシュ。

「ラーメン、めちゃくちゃうまくない?」と、アルト。

「醤油ラーメン、何杯でもいけそう」ケルシュが、もう箸の使い方をマスターしてる。

「このさ、茎わかめ、最高」ヴァイの味覚が渋い。

「それ、私のー!」

 動画に、リング・リングが、乱入してきた。必死に、ヴァイから茎わかめを奪う。

「誰にも渡さない!」

「こらー! 映り込んじゃうから!」

「だって、私の茎わかめーーーー!」

 慌てて、ボリショイがリング・リングを引き離していた。

「大食い企画の食料の提供は、この船の調理マシンがやってくれました。すごい大量にストックがあるんですねえ」

「焼き肉すごくない? ただの肉を焼いてるだけかと思ったら、全然違うの」

「味付けもいいし、肉質からいいじゃん」

 ケルシュは、もう味覚が明らかに順応してる。

「ステーキの焼き加減の絶妙さ。これ、魔王討伐の旅の時に、めちゃくちゃ役に立つじゃん」

「勇者パーティに、料理人は必要だな」

「今度、メンバーに入れるよう検討しよう」

 とにかくたくさん食べる。寿司天ぷらうどんハンバーガーお好み焼き豚玉MIX!

「……もう、これ以上食えなくない?」

 痩せているはずのヴァイのお腹が出ている。

「この宇宙船、どんだけ食料積んであるんだよ」

 ケルシュのツッコミもキレがない。


 ただごはんを食べている。それだけで、生配信への課金が繰り返されている。

 課金は、ギャラクシーチャット、ギャラチャと言います。

「これ、すごい金額ですよ」

 さすがに、桁が大きいらしく、リング・リングが驚きました。

「登録者数はめちゃくちゃ伸びてるし、もう三億人突破してます!」

 億とか言われても、桁がおかしくて、何が正しいのか、ヴァイたちにはピンときません。

 銀河系には、一〇〇を越える知的生命体が住む惑星と、五〇を越える生命体タイプ、そこに約三〇兆の人口がいるのです。その中においても、生配信の同時視聴が三億は、すごいわけです。

「生主への課金が常識外れになってます」

 生主とは、要するにヴァイたちのこと。

「普通にやったら、この一/一〇〇も行かないですよ」

 ほえー、と、感心したようにリング・リングが言う。

「やっぱり、勇者様たちが人気だから」

「特に、ギャラチャを大量にくれる人がいますね。こういう人には、ちゃんと答えておきましょう」

 木下の指示は、的確だった。確認すると、名前は、「アッズーロ」。

「アッズーロさん。いつもありがとー!」と、アルトが最大限の笑顔で応えた。

 明らかにヴァイたちは、銀河の生主として、調子に乗っていました。

 生配信では、滅亡した惑星の生き残りの勇者として、人気を博していた。

 そう、もはやヴァイたちは、役者でもなければ別のジョブでもなく、本物の勇者のふりをしていた。

「どうしよう。ホントのこと、言いにくくなったな……」

 ケルシュは気にしていたが、

「いいだろ。別に勇者としてなにかするわけじゃないし」

 アルトとしても、ちやほやされたくて、しばらくの間、勇者ぶっていようと思っていた。


「けっこうギャラチャ溜まりましたね。お金持ちだ」

 リング・リングは食べ物とお金に興味が強くて、健康的です。

「お金と言えば、国にいるときに交わした、契約の仕事はどうすれば……?」

 すっかり忘れていた。星は崩壊するし、宇宙に飛び出すし、生配信は始めるし、いろいろありすぎました。

 すると、ボリショイが、普段の様子とはまるで違う雰囲気になって、かしこまって言いました。

「勇者様。改めて、依頼いたします。私は、地球と呼ばれる太陽系第三惑星の、ジア=ス王国の王女です。今、国ではクーデターが起き、私たちは追われる身。どうか、助けてください」

 なんですと!?

 ちょっとわざとらしくない?

「王女!?」

 ヴァイたち三人は、これは本気で驚きました。

「ちなみに私は、ボリショイの学校の友人です」

 と、茎わかめをクチャクチャかじりながら、リング・リングが言う。

「じゃあ、木下ちゃんは?」

「私は、王女付のメイドです。本来なら、私一人でも護衛は大丈夫なのですが、王女様がたの、たってのお願いです。どうか、勇者と見込んで、護衛をお引き受けくださいますか?」

 それを聞いて、「という設定のお芝居」をやるのが、今回の旅公演の演目なんだな、と納得しようとしたが、ヴァイたちには、不安の方が大きく、うまく処理できませんでした。

 その不安を確信に変える出来事が、このあと、起きるのです。


 というわけで、もう、ずっと説明回でした!

 ちょっと、盛りだくさんすぎたかな。疲れたでしょう?

 というわけで、故郷を離れてはるか彼方を旅することになった三人の今後が気になるという方、チャンネル登録とグッドボタンをよろしくお願いします!

 ギャラチャ欲しいよー、という方も、チャンネル登録とグッドボタン、お願いしまっす!


 クチーナ・アルコバレーノ、第四回、あなたのハートをパイレーツ!

 アランと、

 ヴィオラでしたー!


 次回は、

「みーつけた」

 おっと、この声は!?

 生配信を見ていた宇宙刑事が、ボリショイたちの宇宙船に乗り込んでくるよ!

 おったのしみにー!

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