第4話 殿下と脳筋

 シオン・ユグノール第一王子。


 作中では五人の中でも中心的な人物であり、メインストーリーでの攻略対象でもあった。


 中世的な見た目と中性的な声が特徴で、女性から絶大な人気を誇っていた看板キャラクターだ。


 そして、シオンはロゼの婚約者であったため、主人公とシオンの仲が親密になるにつれ、ロゼの主人公に対する嫌がらせが最もエスカレートする攻略対象でもあった。


 そしてその結果が公開処刑。


 あらゆる悪事を暴露され、王家の怒りを買ったロゼは聴衆の前でその首を落とされるのだ。


 最も残酷な結末だ。


 しかも、罪状の中にはこの国で最も重たい国家転覆罪が含まれているというのだから、一体ロゼは何をやらかしたのだろうか。


 というか、この暖かい家庭環境でどうしてそんな風に変わってしまったのか。


 俺は少しの嫉妬と納得のいかない怒りを胸に抱いた。


 ◆


 「シオン殿下、ご機嫌麗しゅう。お久しぶりに殿下にお会いでき、ロゼはとても嬉しく思います」


 俺はスカートを摘まみ上げ、優雅に会釈をしてみせ、固さの抜けないおべっかを目の前の少年に投げかけた。


 「あ、あぁ。ろ、ロゼは相変わらず美しいな」


 俺の社交辞令にシオンもまたたどたどしく言葉を返す。


 顔を上げ、少年の顔を改めてみる。


 うん。


 憎たらしいほどに端正な顔立ちだった。


 俺と同じ十二歳の少年の顔はまだあどけなく、長い睫毛をあしらった大きな瞳と柔らかそうなほっぺたはまるで女の子のようだ。


 第二次成長期はまだのはずが、シオンの身長は俺よりも僅かに高かった。


 同じ男として少し悔しい。


 そんな金髪碧眼の紅顔の美少年は今、俺から目を逸らしそわそわとした様子を見せていた。


 ははぁーん。


 さては俺のこの美少女フェイスにドギマギしているな。


 それもしょうがないさ。


 なんと言ってもゲームに於いてもプレイヤーの誰もがロゼを男だと疑いを持った者はいないレベルで美少女なのだから。


 だが男だ!


 シオンの反応をもう少し楽しんでみたいが、十二歳の少年を虐めるのも酷だろう。


 そう考えた俺は素直にシオンを出迎えた。


 「いらっしゃいませシオン様。シオン様と遊べるこの日をロゼは楽しみにしておりました」


 「そ、そうなのか?いや、嬉しいけど……ロゼは今日なんかいつもと様子が変だな。妙に素直というか」


 ミスった。


 どうやらロゼはシオン殿下に対して塩対応だったらしい。


 おいおい、王族で婚約者だぞ……


 あぁ、そうか婚約者だからか。


 両親の話を聞いていると、普段のロゼはノンケで、女装を嫌がっていた節があったようだ。


 そりゃ同性の婚約者なんてのが目の前に現れたらロゼも困惑するよな。


 「わ、わたくしももう十二でございますわ。この家の娘として相応しい品格を持たねばなりません。将来の夫となる殿方に敬意を払うのは当然のことですわ」


 「そ、そうか……」


 シオンが気まずそうに目を逸らす。


 おや?さっきとは少し違う反応。


 これは一体どういう反応だろうか。


 ◆


 シオンを自分の部屋に案内した俺は、シオンと雑談を交わしながら、盤上遊戯を楽しんでいた。


 「ぐぬぬっ」


 熟考の末一番強い駒を動かす俺。


 俺の手を見たシオンがクスリと笑い、最も弱い駒を一つ動かす。


 「ふふっ。殿下そんな温い手ではわたくしの竜騎士はとまりませんことよ!」


 俺は意気揚々と駒を動かし、シオンの駒を奪うと優勢に立ったと思った俺が高笑いを上げた。


 流石は作中屈指の悪役令嬢。


 相手を見下す仕草が板についている。


 俺は自然に出た見事なまでの悪役令嬢ムーブをかまして見せた。


 しかし、シオンの余裕の表情は崩れない。


 微笑のまま流し目で俺をちらりと見たシオンが流れるように次の一手を打った。


 「おほほっ!そんなところにただの兵士を置いて一体なにに……なると……つ!そ、そんな!わたくしの竜騎士の逃げ場がいつの間にか!?」


 「それだけじゃないよ。竜騎士を無理やり逃がしてごらん?そうすると───」


 「───王っ、がっ、都っ、落ちに!!」


 「さらにはロゼの打つ手によっては貧民の下剋上まで僕には見えている」


 「そ、そんな……完敗……ですわ」


 打つ手がなくなってしまった俺は、肩をがくりと落として負けを認めるしかなかった。


 「あははっ。今日のロゼは面白いな。手加減してくれたんだろう?いつもなら僕がコテンパンにされる立場だからね。今日のロゼの指し手はなんか、脳筋だったな」


 おい、誰が脳筋だ。


 顔が良いからって許されると思うなよ。


 どうやら以前のロゼは俺よりもこの盤上遊戯が得意だったらしい。


 ふん!あんまり経験がないから今は弱いだけだかんな!


 もっと強くなってまたコテンパンに叩きのめしてやる!


 俺は心の中で復讐を誓い、安いプライドを保つために演技を打つことにした。


 「そ、そんなことはございませんわ殿下。殿下が大変お強くなられたのかと。未来の賢王の片鱗ですわね!」


 わざとらしいおべっかで、殿下を立てたのだと匂わせるムーブをかます、見た目は子ども、プライドは大人の俺。


 見苦しいかもしれないが、脳筋と言われて実は傷心していた俺を許してほしい。


 くそ!こんなガキに!!


 「つ、次は剣で勝負しましょう!!殿下!!」


 「え?剣?」


 俺は少し強引に中庭へと殿下を連れ出した。

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悪役令嬢はツいている!?~乙女ゲーの悪役令嬢に転生してしまったが、バッドエンドを避けるために頑張っていきます。って、え?ついとるやんけぇぇぇええ!!~ 四季 訪 @Fightfirewithfire

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