第2話 悪役令嬢は嘘だらけ2

 男の時のままの感覚でなぜか異世界にもある小便器で立っておしっこをしたら、親しみ深い相棒がおりました。


 姿は多少変われど、それでも生まれてからずっと成長を共にしたそいつの姿に私は涙腺が緩む感覚に襲われながらも、ド頭をハンマーで殴られたような衝撃に襲われ、またもや絶叫をこの御屋敷に響かせてしまいましたわまる


 「本当にどうしたんだ!ロゼ!頭でも打ったのか!!」


 はい、とてつもない衝撃に後頭部をどかんと。


 視界に入ってきたお〇ん〇んに頭を殴られてしまいました。


 あらやだえっち。


 「私はわたくしのはずなのにおれのナニがぼくで恥ずかしがり屋なめたもるふぉーぜ?」


 「なにを言ってるの!ロゼ!?正気に戻って!!」


 ロゼの父と母の慌てふためく声が聞こえる。


 あぁ、声優さんと同じ声。


 落ち着くよ。


 「ぱぉおーーーん」


 「本当にどうしたのよ!?」


 「は!?」


 どうやら俺は自分の頭の中の情報を整理する際に発生した摩擦によってなにやらおかしなことを口にしていたらしい。


 なにを喋っていたのかよく覚えていない。


 俺は自分が何を口走ったのか分からずに少し恥ずかしくなった。


 「一体どうしたと言うのだ!それに使用人用の厠で小用を済ますなどと!使用人に見られたらどうするつもりだったのだ!男だとバレてしまうではないか!」


 ロゼの父の表情は真剣だった。


 それもかなり危なかった様子だ。


 「……ごめんなさい」


 どうやらロゼが男であることは確定で、それは両親も知っている事実のようだ。


 転生して体ががっちゃんこって感じであべこべになったという線はこれで消えた。


 しかし、どうしてロゼは男であることを隠して女装する必要があるのかが分からない。


 その疑問を今俺の口から言うのも不自然だ。


 中身がロゼでなく、別の男の魂だと言う事がバレかねない。


 まぁ、それよりも記憶の混濁やら喪失を疑う方が妥当ではあるが、下手を打たない方が良いのは確かだろう。


 そもそもがバッドエンドしかない悪役令嬢だ。


 自分の立場がこれ以上悪くなるようなことは避けねばならない。


 俺は本物のロゼ・フローレルを演じなければならない。


 「大丈夫ですわ。お父様!少しまだ寝ぼけていたようですの。お恥ずかしい所をお見せしてしましたわ!」


 俺は記憶にある悪役令嬢ロゼ・フローレルの口調を必死に真似た。


 これで両親が安心してくれれば俺も安心できる。


 「……あなた」


 「あぁ。ロゼ……いや、ローゼンよ……。お医者さんに診てもらおう。安心しろ。診てもらう医者はこちらの事情を知っている人間だ。お前が心配することは無い」


 どうやらダメだったようです。


 そうですよね。


 女装した姿が演技なのだとしたら、両親の前であのままの口調な訳ないですよね。


 てかロゼてめぇ、名前まで偽名だったのかよ。


 俺はお前が分かんないよ……


 ◆


 「こちらがあなたを見てくれるお医者さんよ」


 俺の前に軽く肥えた豚鼻の白衣が現れた。


 「おやぁあ。大きくなったねぇローゼン君、いや今はロゼちゃんかぁ」


 ニチャアと口元から擬音が聞こえてきそうな男の笑みに俺の背筋に怖気が走る。


 俺の身体をつま先から頭の先まで舐めまわすように見てくる医者に俺は嫌な予感を覚えた。


 「ほぉら、上着を脱ぎ脱ぎしよっかぁ」


 「ひっ!」


 そう言って無遠慮に俺の上着に手を掛け服を脱がす豚に俺は泣きそうになった。


 手つきがキモイ!


 目線が厭らしい!


 鼻息を荒げるな!


 俺は心の中で吹き上がった罵詈雑言を口にしたくなったが、両親の手前、そのままいう訳にはいかず、喉元でストップをかけた。


「どうして急に自分の首を絞めてるのかなぁ?医者への挑戦?」


 喉元に引っかかっているがどうにか堪える事ができそうだ。


 「あらー?いつもなら口汚い事言って暴れるのに今日は大人しいわねぇほんとに大丈夫かしら」


 GO


 「ブタ!デブ!不潔!変態!目つきと手つきと肉付きがキモイ!俺に触んな!性犯罪者!!」


 喉元で引っかかっていた俺の罵詈雑言はそこでエネルギーを溜めていたようで、俺が思った以上のパンチ力になっていた。


 デコピンとかと同じ要領だよね。


 悪口にも当てはまるって初めて知ったよ。


 しかし俺は少し言い過ぎたかと思い、医者の方を見ると、そこには顔を赤く染めて恍惚とした変態の姿があった。


 「あぁっ!ローゼン様は健康です!どこも不調はありまっせん!いつものローゼン様ですよ。いや、いつもより調子良さそうでむしろ私が元気をもらいました。寿命……一か月は伸びたかも」


 ルンルンとした変態に俺は思わず距離を取った。


 近寄りたくない。


 近くにいるだけで孕まされそう。


 男だけど。


 「身体に変化は見られません。頭の方も特段おかしな反応は見られませんでしたな。ローゼン様は頗る健康体ですよ。公爵閣下」


 「え?今のでもう調べ終えたのか?」


 まだ脱がされている途中だったが、この医者の口ぶりからすると俺の身体は既に調べ終えたようだ。


 いつの間に?


 「流石だな。ブータブー。見事な手際だ」


 「これくらい朝飯前でございますよ」


 酷い名前だな、という同情と納得はさておき、流石は父、ゼンの呼んだ医者なだけはある。


 あの一瞬で身体だけでなく頭部の検査まで終わらせたようだ。


 「そう、それなら安心ね」


 「どうやら私たちの心配も杞憂だったようだ。しかし、ロゼ……いや、ローゼンよ、なにか悩むようなことがあったら迷わずに私たちに相談しなさい」


 「は、はい……」


 この両親が俺を、いや、ローゼンを愛しているという気持ちが俺の胸に伝わる。


 ならなんで女装しなきゃならないの?と疑問も深まるが、それもおいおい知ることが出来ればいい。


 それより今は──────


 「ローゼン様っ最後に貴方様を検診したのはもう半年も前!お体も成長されたご様子、このブータブーがその玉体の成長記録を──────」


 「死ね!てめぇのナニのサイズでも測ってろ!小指一本あったらそれだけで大体のサイズが分かるだろうよ!」


 「酷い!!このブータブーの一物は大変立派ですのに!」


 「知るか!喜ぶな!死ね!」


 俺は服装を直して部屋から飛び出した。

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