第24話:花かごに届いた頼もしい手

午後の穏やかな日差しが店内に差し込む中、花屋「花かご」の扉が軽やかに開いた。入ってきたのは工具箱を片手にした男性だった。


「こんにちは。こちらでラジオの調子が悪いと聞いたんですが、僕、修理を専門にしている者でして。」


その言葉に千代は驚いた。ラジオの不調は確かに気になっていたが、誰にも相談していなかった。顔を上げると、青年が少し照れくさそうに笑っている。


「実は僕が呼んだんです。千代さんの大事なラジオ、ずっと直してあげたいと思ってて。でも、僕じゃ手に負えなくて。」


千代は青年に感謝の目を向け、修理技師を店の奥へ案内した。


「これがラジオです。母が残してくれた大切なものなんです。」


修理技師はラジオを丁寧に観察し、パネルを外して中を覗き込んだ。


「古いものですが、まだ直せる可能性がありますね。部品が揃えば、音がもっとクリアになるはずです。」


千代の胸が少し高鳴った。このラジオは母の声を思い出させる大切な存在だ。けれど、同時に不安も湧き上がる。もし完全に壊れてしまったら…。


「どうしますか? 修理を試みるか、そのまま大切に飾っておくか、千代さんの判断にお任せします。」


修理技師の問いに千代は立ち止まる。ラジオが壊れるリスクと向き合うことになるが、もし音がよみがえれば、この店に訪れる人たちにももっと豊かな時間を届けられる。


しばらくの沈黙の後、千代は小さく息を吐き、口を開いた。


「お願いします。このラジオがまた音を奏でるようにしてほしいんです。」


修理技師は頷き、慎重に作業を始めた。ラジオの中の複雑な配線を見つめる千代の目には、期待と不安が入り混じっていた。だがその決断には、確かな覚悟が宿っていた。


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