第19話:微かな記憶の残像

青い結晶を手にした千代は、どこか懐かしい気配を感じていた。それは幼い頃、母が語ってくれた物語の一節を思い出させるものだった。


「この世には、人の願いを映す泉があるのよ。その泉の光を見つけた者だけが、本当の幸せを掴むことができるって言われているわ。」


母の優しい声が記憶の奥底から蘇る。陽の泉についての話だったのかもしれない――そう思うと、結晶が自分を導いているような気さえした。


「千代さん、大丈夫ですか?」


青年が声をかけてきたことで、千代は我に返った。


「あ、はい。すみません、少し考え事をしていました。」


「無理はしないでくださいね。この先はさらに険しくなるかもしれません。」


森の奥へ進むにつれ、道はますます不明瞭になり、雑草や絡みつく蔦が行く手を阻んだ。しかし、その度に青年が手を貸してくれたおかげで、千代は一歩一歩前へ進むことができた。


「この結晶、少しずつ道しるべになっているような気がします。」


青年がふと地面を指差す。千代が目を凝らすと、確かに同じような青い欠片がところどころに落ちていた。


「母もこの道を辿ったのかもしれませんね。」


千代の言葉に青年は小さく頷いた。


「この結晶には、何か特別な力があるように思えますね。単なる鉱石とは思えない。」


そう話しながら、二人は慎重に進み続けた。そして、不意に森の静寂が破られた。


「ゴォォ…」


低い唸り声がどこからともなく響いてきた。二人は立ち止まり、辺りを見回す。


「何かがいる…!」


青年が警戒を強める中、千代は息を潜めて声の方向を見据えた。その先には、大きな岩の陰から現れる不思議な生き物の姿があった。それは森の守護者のような佇まいで、鋭い目が二人をじっと見つめていた。


「どうするべきでしょう…?」


千代が囁くと、青年は慎重に言葉を選びながら答えた。


「慌てずに。この生き物は、私たちが敵かどうかを見極めようとしているのかもしれません。」


二人は動かず、じっとその守護者と向き合う。緊張感が漂う中、青い結晶が微かに光を放ち、守護者の視線がそれに向けられた。


「これが…何かの合図になるのかな?」


千代は結晶を握りしめ、静かに次の行動を見極めていた。


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