自分のペースで1

 四人で遊びに行った日の夜、ある夢を見た。


 小学校低学年くらいの小さな女の子が、両親と楽しそうに遊んでいる。ああ、あの子は昔の私だ。

 女の子はブランコを父親に後ろから押してもらい、母親はその光景を笑顔で見ている。こんな時期もあったんだ。もうずっと前に忘れてしまっていた。


「奈々花、そろそろ帰りましょ」

「やーだ!もっと遊びたい!」

「もう、我儘言わないの」


 そう怒りながらも両親は、どこか幸せそうだった。


 場面が変わり、リビングで家族三人で話している。


「奈々花、一人でお留守番出来る?」

「出来るよ!奈々花、もう大人だもん!」

「あら、奈々花はまだ子供でしょう?」

「ちがーう!もう奈々花、小学生だよ!大人だもん!」


 そう大きな声で言う私を見て、両親は安心したように家を出ていく。


 ……しかし暫くして、家に一人の私は泣き出すのだ。


「寂しい」


 両親が帰ってくるまで、私は泣き続ける。


「奈々花、ただいま……って、どうして泣いているの!?」

「寂しかったのー!」

「あらあら、仕方ないわね。じゃあ、お母さんと手を繋ぎましょ」


 お母さんが私に手を両手で包み込むように握る。



「大好きよ、奈々花。寂しくなんかないわ。お母さんとお父さんは奈々花が大好きだもの」


 

 っ!



 目が覚めると、目から涙が溢れていた。

 今のはただの夢?それとも、昔を思い出したの?

 分からない。でももう一度、今の夢が見たい。今の夢が昔の私でも、ただの夢でも、どっちでもいいの。ただ、もっと幸せを味わわせて。もっと幸せを感じさせて。

 目を瞑っても、同じ夢など見れはしない。それでも、目を瞑る。だって、今ならきっといつもよりぐっすり眠れる気がするから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る