配信二日目
「みんな~!ドクター・エンゼルフィッシュの配信の時間だよ~!今日も宜しくね~!」
配信時間になり、朝多マヤはドクター・エンゼルフィッシュとしてライバー活動に専念する。
「今日はみんなにも考えて欲しいテーマを持って来たよ~!」
『888888』
『待ってました!』
昨日よりは減少してしまったリスナーの数を計算しつつ、マヤはある問題をリスナーに投げかける。
「今回のテーマはこれ、日本神話の須佐之男命とギリシャ神話のヘラクレスの類似点だよ。
日本神話に登場する八岐大蛇って有名な筈なのに伝来神話は古事記しかない。これはギリシャ神話のルーツが大元だと考えるとギリシャ神話のヘラクレス像が須佐之男命になったとも考えられるでしょ?
そもそも、八岐大蛇みたいな怪物が実在したなら、目撃例も多かった筈。日本神話でこれから蛇の神様の神聖な使いになった派生も考えられなくはないんだ。
何故なら須佐之男命が退治したあとは天叢雲剣が登場するからね。
即ち、邪悪な存在から神聖な存在に転換したとも考えられるでしょ?
このルーツと日本人のホモサピエンスから進化を考えるに古代ギリシャから流通があったんじゃないかと考えられるんだ。これに対して、みんなの考えも教えて欲しいな」
『なるほど。面白い考察だ』
多くのリスナーが沈黙する中、真っ先にコメントする存在がいた。
『確かに学物的に人間はホモサピエンスからいまの進化に発展しました。けれども、その大元となる歴史は解ってません。エンゼルさんの考え方はとても興味深いです』
そのリスナーがコメントする中、マヤは他のリスナーの反応を伺う。
マヤがこの質問を投げかけたのには理由がある。
勿論、このように賛同するリスナーもだが、多様性を持つ現代社会で自身の意見を述べられる大人の解析である。
このような理論を述べれば、当然のように批判もあるだろう。
それらに対し、ただ批判するのか、それとも別の理論で根拠を示す大人がいるのか。
その解析も含めて彼女は今回、この仮説を投げかけたのである。
しかし、批判はこのリスナーの賛同の前にコメントするのが難しくなったのか、そのコメント以外が表示される事はなかった。
まだ開始二日目なのもあるが、彼女が思うよりも意見を交わし合うにはまだ土台が未完成なのもあるのか、それとも批判する気力もないのか、いずれにしろ、現代社会で意見を主張する事への発信の少なさにマヤは如何に他のリスナーの主張を引き出すかを考える。
まだ興味半分なリスナーもいるだろう。そういった人間達の興味を引き出しつつ、自身の世界を如何に広げるか。彼女はそんな考えを抱きつつ、そのコメントの主以外の出方を窺いながら言葉を続ける。
「私の意見はあくまでも仮説だし、科学的な根拠がある訳じゃないよ。
でも、だからこそ、この考察も的外れとは言えないし、ルーツを探る意味でも共通化しただけなんだ。
だから、他の意見もあれば、それも聞きたいな。勿論、これに異議を述べるのも個人の自由だし、まずは多くの意見が欲しいな。
ヘラクレスと須佐之男命が同一の場合、日本は古代ギリシャ神話を模倣したか、アレンジしたか、神話に類似性を持った。
つまり、日本の神々の中には古代ギリシャにまつわる神々との交流や遺伝子があるのではないだろうかっていうのが、私が今回、考えた仮説なんだけれど、これに対して意見とかないかな?」
『神話と歴史を混同しているのでは?』『神話と歴史は別のものなのに、なぜ古代ギリシャと日本を結びつけるのか?』『根拠が薄すぎる』『科学的な根拠がないのに、なぜこんなことを言うのか?』
やっと重い腰を上げたリスナー達のコメントにマヤは意見に一つ一つ返す。
「やっと、その気になってくれたね。こういうコメントも待っていたよ。まずは『神話と歴史を混同しているのでは?』というコメントだね。確かに神話と歴史は異なるけれど、古代の歴史などは神話になる故人の英雄譚である可能性もあると思うんだ。
だから、古代ギリシャ神話が歴史文化の交流や口伝などで形を変え、いまの日本の神話として残ったのではとも私は考えているよ。
『神話と歴史は別のものなのに、なぜ古代ギリシャと日本を結びつけるのか?』というコメントもだけれども、歴史的な交流の仮説として現代社会のようなグローバル化した異文化交流があったのではとも推測出来るんじゃないかと私は思っているんだよ。
勿論、インターネットの普及みたいなものはないだろうけれども、ホモサピエンスの集団進化が世界中で多発したなら交流となる文化なども類似傾向があると思うんだ。
その一つが神話の類似点による今回の大元となる仮説だよ。
『根拠が薄すぎる』『科学的な根拠がないのに、なぜこんなことを言うのか?』ってコメントについてだけれども、私達の文化レベルも後世の科学的な根拠からしたら違った解答をすると思うし、現代社会にも再現が困難なロストしたテクノロジーがある。科学的な根拠があるからって、それが正解とは限らないし、考察出来る部分がある以上、それが本当に根拠がないかなんて、その時代に生きた人じゃないと解らないんだ。あとは根拠という概念そのものだってデータに過ぎないし、現代社会に都合よく解釈されている部分があると思うんだ。
だからこそ、個人個人の主張とそれに対する批判自体は私はしないよ。
ただ、私が考えた神話から分析する歴史的ルーツも一つの歴史の交流が産み出した産物や隠された意味があるのかも知れない。
それらをただ、頭を捻って考えた訳でもなく、解釈したと思ってしまうのは勿体ないと思うんだ。
だからこそ、こんな風に発信しているんだよ」
朝多マヤは愉しそうに意見を出し合うリスナー達を眺め、ある程度、ヒートアップしそうなところで話題を今日の夕飯へと変える。
謎を敢えて残しつつ、自らでリスナー達が答えを見付ける──そうして専門知識を有したリスナー達を育てて情報を拡散共有するのが、彼女達の狙いであるとも知らずにドクター・エンゼルフィッシュのリスナー層がまた厚くなるのであった。
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