このVライバーは考察実験が目的です
陰猫(改)
初配信
──春もうららかな4月の昼間。
光加減で薄い桃色に輝く地毛を持つ朝多マヤはスタンドにセットしたスマートフォンの前に座り、最終チェックを開始する。
この日の為に貯金して手に入れた新品のマイク。友人達と相談して購入した型式が若干古いが、最新バージョンにアップデートが完了されたスマートフォンの環境。
すべてはこの時──この瞬間の為に綿密に以前から練られていた。
即ち、Vライバーデビューによる情報拡散計画である。
「最終チェック……テステス……これで大丈夫かな?」
マイク越しに発せられる朝多マヤの問いに友人のアカウントから『大丈夫!』『OK!』などのコメントが流れ、スマートフォンに表示された朝多マヤの依頼した立ち絵の目と口が動く。
朝多マヤ。大学生になるこの春──彼女は不安と期待を胸にとあるアプリを起動してVライバー活動をはじめるのであった。
「それじゃあ、個人勢のドクター・エンゼルフィッシュが送る現代を生きる私達から見た妖怪談義の考察配信をはじめるねよ~。
みんなも興味があったら是非、コメントとかしてねえ」
朝多マヤのコメントに興味を示したリスナーや協力してくれた友人達のコメントが流れ、現代を生きる彼女達のささやかな妖怪談義がはじまる。
「みんなは妖怪談義って読んだ事がある?──民話や民謡を執筆者が独自に分析して解釈した本なんだけれども、いまの情報拡散出来る世界で妖怪談義に別視点でメスを入れる本とかってないよね?
これって、正直に勿体ないと思うんだ。どれくらい勿体ないかっていうと折角、書籍になって考えられるようにされた教科書を買ったのに開かないくらいに勿体ないと思うよ。
文化的な歴史と解析をするのに適した環境がいまの時代にはあるのにインターネットもだけれど、そういうのを拡散しようとすると迷信として処理されちゃうでしょ?
でも、私は思うんだ。文化的な風習と伝承の拡散から歴史的な風学とかが読み取れるんじゃないかって──科学崇拝もカルト崇拝もないネットという文化交流で見えなかった境界があるんじゃないかって。
それを確かめる為に私──ドクター・エンゼルフィッシュの実験がはじまったって訳……えっと、ここまでは良いかな?」
マヤがそわそわしながら、コメントを見返すと三者三様のコメントで溢れ返っていた。
彼女の意図を理解出来ずに『は?』や『草』と野次を飛ばすリスナーや『声カワイイ!』や『初配信おめでとう!』、『立ち絵可愛い!』と姿や声の第一印象を評価するリスナー。そして、彼女の言葉に『ふむ』や『確かに』と賛同や含みのあるコメントをするリスナー。
マヤが狙いを定めていたのはまさにそんな彼女の言葉を真剣に考えるリスナーであった。
──マヤは続ける。
「日本の風習や文化は外来の売買取引の交流による拡散だよね?
じゃあ、それなら口伝の拡散や言語ルーツも現代の科学的な根拠とかで分析とかが、ある程度は出来るんじゃないかな?」
彼女の次の言葉に更に意見がわかれる。
『確かに。根本的なルーツと風習を考えるのならば、いまの時代でも可能なのでは?』
『いや、土着によるルーツもあるから、それが決定的になるとは言えない筈』
『そもそも、日本の独自性を考えるに模倣とアレンジはあるが、歴史的な伝承はない。考え方としては興味がある』
その中で更に絞られた意見にマヤは嬉しそうに笑うと更に次の言葉を続けた。
「外来の歴史的アレンジではなく、日本が持っている独自性のある文化の探求をする事。それが私がこのインターネットでやりたい事だよ。
勿論、本当に科学的な根拠やルーツで探るのは難しいと思うけれども、私達が持つ意見一つ一つからも別の見方が出来ると思うんだ。
その試験的な実験で私もVライバーをはじめたって訳なんだよ。だから、みんなも気になった事や興味を持った文化風習を教えてね?」
マヤはそういうと他のリスナーが飽きたり、退室しないように注意して最近していたゲームの話や初配信までの日常的な変化についての話を交えて初めてのライバーデビューをしつつ、リスナー達の傾向を観察するのであった。
そんなリスナー達とコミュニケーションをしながら、彼女は過去の自分の事を思い出すのであった。
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