怖い話の詰め合わせ

未樹 誠

第1話 目

「あ~、やっぱり一人暮らしはいいねぇ」

陽子は部屋の真ん中で伸びをした。

陽子は上京してきて、今日から一人暮らしを始めたばかりだった。

「明日は、この周りを散策しなくちゃなぁ。

どこに何のお店があるかとか」

開放感に溢れた陽子はご機嫌だ。

引っ越しの作業などで疲れた陽子は、ウトウトとしていつの間にか寝てしまった。

「あれ、寝ちゃったんだ私…」

起きた時には夜中の十二時を過ぎていた。

意外なほどアパートの周りは静かで、陽子は少し怖くなった。

馴れていない土地での一人で迎える夜は心細い。

ピンポーーーン

ビクッ

インターホンの音に驚く陽子。

「こんな時間に誰?…」

陽子は怖かったので、そっと静かにドアスコープを覗いた。

「ひっ」

思わず声が出そうになるくらい驚いた陽子。

ドアスコープの向こうに見えたのは目だった。

人の目だけが見えた。

まるで、ドアスコープからこちらを覗いているようだった。


カタカタカタカタ


ドアの下の方に目を向けると、ポストの部分が開いたり閉まったりしていた。


カタカタカタカタ


ドアの向こうにいる人物が指で開けたり閉めたりしているようだ。

「誰なの!」

陽子は勇気を出して叫んだ。

カタ…

開け閉めの音が止まった。

陽子は身を縮めてポストを見た。

「ひぃっ」

横に細長いポストの受け口には、二つの目がこちらを覗いている。

「いやあああ」

陽子はドアチェーンをかけ、部屋に走り戻った。

ベッドに潜り込んで、毛布を頭からかぶった。

「なに?強盗?警察を呼んだほうがいいのかな…」

カタカタ震えながら色々考える陽子。

しかし、ドアの方からは何も聞こえなくなった。

陽子は少し落ち着きを取り戻し、ドアまで行ってみた。

そして、ドアスコープを覗いたが、普通に外が見えるだけだった。

「よかった……」

陽子は安心して部屋に戻った。

「なんか、目が冴えちゃったな」

陽子は本棚に手をかけ一冊本を抜き取った。

その一冊分の空いたスペースの奥に、目がいた。

こちらを見ている。


陽子は気づかない。


カリカリカリ

何かを引っ掻いているような音がする。

本棚の裏の方から聞こえる。

「いやだなぁ、ネズミとかいるのかな」

落ち着きを取り戻した陽子はタンスの裏を覗いてみた。

壁と本棚の隙間は三センチほど開いている。

奥の方は暗くてよく見えなかった。

しかし、その暗い中、ハッキリと見えるものがあった。

人の目がその暗い中にあり、見開いた目でこちらを見ていた。

「きゃああああああああ」

叫ぶ陽子の腕を何かがつかんだ。

そして、わずか三センチの隙間に陽子は引きずり込まれそうになっている。

「ひっいいい……」

壁には無数の人の目が見開いたまま浮き出ている。

「いやああああああああああああああああ」

叫びと共に陽子は隙間に吸い込まれた。


そして、壁に浮き出た無数の目の中にふたつの目が増えた。

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