4話 魚はほぐして食べるもの

夕刻、

私たちは家に帰り

母に釣果を伝える。


「わぁ

 すごいじゃない

 父さんが一人で行くときは

 毎回坊主なのに

 よく釣れたわね。」


「うるさいなぁ」

 

へそを曲げた父が台所へ向かう。


父は魚をさばく。

母は煮つけの仕込みをする。



二人の連携作業は

息ぴったりで

さすが夫婦といった

ところである。


あっという間に

「カサゴの煮つけ」

ができあがった。



「さぁ、ご飯よ。」


「はぁい」


私と弟が食卓に向かう。

小競り合いをしていては

ご飯が冷めてしまうからだ。


「いただきます。」


家族全員声を合わせる。


もちろんメインは

骨付きの煮つけである。


弟も必死に

骨を避け

上手く煮つけを

美味しそうに食べている。


「んー美味しい

 父ちゃん、父ちゃん

なんで魚はむしると

 こんなに美味しいの?」


「それはな

 『無視しているからだ』


 お前も魚釣りに行ったとき

 仕掛けの仕込みとか

 糸を張ったり

 餌付けたりして

 どうやったら

 魚が釣れるのかとか

 深く考えただろ、

 

 ただ、それでも

 魚が釣れない時がある。

 そんな時には一旦

 立ち止まり

 周りの景色を見渡す。

 

 

 すると

 さっきまで囚われていたものが

 泡となり

 もう一度頑張れる。

 

 その果てには

 魚という最強のご褒美が

 待っているんだよ。

 

 それに比べて

 スーパーやコンビニで売っている

 骨抜きにされた魚たちを

 食べるのはなぁ

 釣りの楽しさ

 調理の楽しさ

 といった

 多くの「楽しさ」

 むしり取られてしまった

 ものなんだよ。

 

 だからな

 魚は

 自分からむしって

 たべないといけないんだよ。」


私と母が父の言葉を反芻していると

弟が訝し気な表情をして口を開く。


「父ちゃん

 それじゃだめだよ。

 「むしる」って

 いうのは

 方言だよ。

 このままじゃ

 みんなに

 伝わらないよ

 

それにむしりとるのは

 奪うってことでしょ

 

僕はね

そうじゃなくて

 スーパーや

 コンビニの人たち

 にも楽しさを

 伝えたい

 みんなの表情

 がほぐれるのを

 見てみたい。

 

だから

魚は

むしるより

”ほぐすべき”なんだよ。」


「これは一本とられたな

 父さん始めて

 お前に負けた気がするよ。」


父、母、私、弟

家族全員が笑い出す。

この笑いを

みんなに伝えていきたい。

そう思った。


ーあれから5年

 スーパーの骨なし魚を見て

 私はこう思う。

 「魚はほぐして食べるべきだ」と。





 

 

 


 

 

 

 

 


 


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魚はほぐして食べるもの 三七田蛇一 @minata3

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