3話 さぁ、釣りに行こう

日曜日早朝 天気曇り


今、私は車に揺られ

海原を目指している。


「もう、山道ばっかじゃん。

 いつ着くの。

 海に出る気配ないんですけど」

 

 弟が小言を漏らす。


「これだから魚のむしれんやつは。

 何も分かっちゃおらんな

 お、そうこうしてるうちに見えてきたぞ。」


 新緑のカーテンに

 身を隠していた海原が

 顔を出した。


 「さぁスピードをを上げるぞ」


 父が勢いよくアクセルを踏んだ。

 どうやら速く海に向かいたいらしい。


 ただ、私は知っている。

 魚釣りがいかに恐ろしいかを

 知っている。

 坂道が下るにつれ

 私の気分も落ちていった。


 「さぁ着いた。

  早速準備に取り掛かるぞ。」

 

 始まってしまった

 魚釣りが。


「おい、おまえ電車結び

 遅いし、荒いぞ。」


父が私をせかしてくる。


「今度はリードがずれてるって

 お前どんだけ不器用なんだよ。」


父が私を追い詰める。

やっとのことで準備ができても

「こら

 竿を立てろ

 あー

 立てすぎ、立てすぎ

 糸が緩む

 違う違う

 今度は張りすぎ

 これじゃあ

 釣果はえられんぞ。」


こんなことがずっと

繰り返される。

私は何をすればいいのか

分からなくなり、

体が震えた。

まさに

「恐怖」である。


しかし、こんなに

長時間待ってるのに

魚は全然釣れやしない。


「もう全然釣れないよ

 こんな時どうすればいいの?」


弟が父に面と向かってそう言った。


「確かに

 魚を釣ろうとすることは大事だ。

 ただな、糸やリールに執着してしまうと

 いくら時間を

 使っても釣果はえられない。

 だからな、

 そんなときにはいったん目をつぶり

 落ち着いて周りをみるんだ」


私は一度目をつぶり

ゆっくり開く。


その刹那私は気づく。

潮の満ち引き

トンビの鳴き声

淡い海の色。

そして、

水平線に目を向ける。


この水平線の向こうには

なにがあるのだろう

そんな何気ないことを

考えながら

ボーとしていると


「兄ちゃん、竿が

 竿が動いてる。」


「え?」


なんと竿に獲物がかかっているではないか。


準備の際は父にさんざん言われてしまったが

獲物を上げる腕は一級品である。


すぐさま竿を立て

魚の息遣いに合わせて

リールを巻き上げる。


「釣れた。」


釣れたのは

煮つけサイズの

カサゴだった。


「うっしゃ」


私は声を荒げて

喜んでしまった。


「お、こっちもかかったぞ。

 今が潮目だ。

 攻め時じゃ。」


武田信玄のような

父を横目に

魚を釣って釣って

釣りまくった。


釣果は8匹。

大漁である。


車までの帰り道

「今日は楽しかったね。」


弟が語りかける。


「おうまた来ような。

さぁ帰ったら

さばかないとな」


「えー明日学校だから

 休ませてよ」


私が駄々をこねると。


父や弟から笑われてしまった。


そんな家族の姿を

夕焼けは暖かい光で

包みこんだ。



 











 


 

 

 






 

 


 




 


 





 

 



 


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