魚はほぐして食べるもの
三七田蛇一
1話 食卓の頭脳戦ー鬼にご飯
ある土曜日のことである。
「夕飯できたよ。」
甘ったるい母の声が家中に広まった。
ここで私は考える。
現在時刻は午後7時。
調理工程を終える平均時刻は午後8時。
加えて、この不気味な声。
すぐさま私の脳内シミュレーターが計算を始める。
そして一つの解にたどり着く。
この間0.3秒
(そうか、私はこれから配膳という労働をさせられるんだな)
そう確信した。
ただ、困まってしまう。
この気持ちを素直に返答したら怒号が飛ぶのは目に見えている。
しかし、鬼に降伏し配膳をしたいわけではない。
だから、私はこう返す。
「今勉強してるから後で行く。」
完璧な返答だ。
別に勉強をしている訳ではないが
こう返すことで鬼に勉強しているアピールを見せ
なおかつ労働に行くことを先送りにできる。
「俺も」
お、弟もこのからくりに気づいたのか。
でも私より遅かった。 まだまだである。
父はどうかって?
父は息子もしくは母が自室に呼びにこないと
リビングへ降りてこない。
これは高等テクニックである。
私たちが真似をしようものなら即、鬼から蹂躙される。
さすが私の父だ。 格が違う。
そんなことを考えているうちに鬼から雷が落とされた。
「ちょっと、早く降りてきてよ。
まさかまだご飯ができていないとか思ってるんじゃないでしょうね。
てか、勉強してるのも絶対嘘でしょ。2秒くらい間があったよ。
あなたも子供が真似するから部屋にこもらずないですぐに来てください。
今日はせっかくご馳走なのに。
ー刺身とイサキの煮つけだから張り切ってつくったのに。
どうやら誰もいらないみたいね。今日のご飯はなしかしら。」
「ドカドカドカドカ」
骨が叩き折れるほど走り続けリビングについた瞬間父、私、弟はこう言った。
「お願いします。食べさせてください。」
そう、何を隠そう我が一家は「魚好き」なのである。
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