終末の勇者
Forgotten creator
生命の森
昔のお話
2500年。科学がめざましい発展を遂げ、人類の栄華は最高点に達していた。
ところがある日、大地を覆う振動と共に南海の孤島より黒色の煙が舞い上がった。そして、そこから一人の男が現れた。
自らを【魔王】と称した彼は、彼が【魔法】と呼ぶ奇妙な力を用い、【魔物】と呼ばれる異形の生物を率い、人類に戦争を仕掛けた。
人類側も当然科学文明をもってこれに応戦したが、どんな兵器も彼を傷つけるには至らず、人類側には手も足も出なかった。
魔王の手に世界の半分が収まり、文明が次々と破壊され、大都会から小さな村落まで徹底的に潰され、このまま人類も滅んでしまうのかと誰もが思った矢先、地の果てより三人の少年達が現れた。
【勇者】と呼ばれた少年、【戦士】と名乗る少年、【魔法使い】と称する少女。
三人は人類どころか魔物たちを遥かに凌ぐ力で、【魔王】に立ち向かった。
魔王側にも何人も強者がいた。全ての獣の力と特性を持つ百獣の王、魔法の申し子、亡者たちの王、いくつもの呪いを司る者、勇気と剣術に秀でた騎士、天才的な頭脳を持った幽霊。その他にも何人もの強者がいた。
しかし、それらの魔物たちも彼らの進撃を止めることはできず、全てが彼らの正義の力の前に屈し、とうとう三人は【魔王】のもとにたどり着き、勝負を仕掛けた。
さすがに【魔王】は強く、その圧倒的な力を前に【勇者】たちは善戦するも、とうとう追い詰められた。
【魔王】が彼らにとどめをさそうとした瞬間、戦闘能力があまりないため傍から見ている事になっていた彼らの旅の途中で加わったメンバー【僧侶】であるとある国の王女が、魔法を使い水晶の中に魔王を封じ込めた。
『いつか我は必ず復活せん!』そう言い残した【魔王】は、光の中に消えた。
かくしてこの戦いは人間側の勝利で幕を閉じた。今まで【魔王】に率いられていた魔物たちは、人類を恐れ、【魔王】が消えた時に彼の支配領域となっていた場所に魔法の力で結界を作り、そこに閉じこもってしまった。
人類側はこれを打ち破ることができず、しかし魔物たちも人類が怖くて結界の外に出ることもできず、世界には平和が訪れた。人類は【魔王】が使っていたのを模倣した【魔法】を使い、滅んだ文明とは比べ物にならない発展した文化を見せた。ただしそれまで世の中に出回っていた電化製品をはじめとする機械の類は全て捨てられたが。
国の王たちは【勇者】一行を褒め称え、恩賞を与えた。彼らはそれを丁重に受け取り、それを持ってそれぞれの故郷に帰った。
彼らはそれぞれの家族をそこで作った。別に特別というわけでもない、平和な日常を過ごしていた。
彼らが幸せな時を過ごしている間、魔物たちもちらほら結界の外に出てくるようになった。しかし、そのたびに周りにいた人類に一斉に攻撃され、皆討ち取られた。
そうして数十年の時が流れた後、突然【勇者】が何かにめざめた。彼は「いかなければ」と一言言い残して、そのまま旅へ出て行ったきり、二度と戻っては来なかった。当時の【戦士】や【魔法使い】、そしてその家族や、各地の彼を慕う者たちが彼を探したが、ついに見つからずじまいとなった。
そして、それからさらに数百年の年月が流れ……。
ある大陸の端の方にある森の中を、三人の少年たちが歩いていた。
彼らは木の実を拾い集めていた。どうやら晩ごはんの材料にするつもりらしい。
一人の少年は、至って平凡な見た目をしていた。黒髪を目が見えなくなるレベルまでのばし、別に大きいわけでも小さいわけでもない平均的な体格をしていた。腰には護身用にも使えそうなナイフを装備している。
もう一人の少年は金髪だった。そこそこ高めの身長で整った顔立ち。早い話絵に書いたようなイケメンであった。背中に木こりがよく使っていそうな形状の斧を背負っている。木の実拾いに使うのかどうかわからないが。
最後の一人の少女は、少し奇妙な服装をしていた。全身を緑色のローブで覆っており、頭にはとんがり帽子とメガネ、あと若干のそばかす。その姿はなんというか、魔女の類を彷彿とさせる服装だった。本人はおしゃれと言い張っていたが、そもそもなんで木の実拾いにおしゃれ意識を持ってくるのかは完全に謎である。
金髪の少年が、木の実の他に洞窟を見つけた。好奇心に駆られた三人は、その洞窟を「たんけん」してみることにした。
洞窟に入ってしばらくすると、少女が鏡を見つけた。古そうなのに曇って何も映らない大きな姿見を見て、三人は不思議に思った。
なんだろうねぇ、と、少女が首をかしげた。
三人がもっと近くで見ようと顔を近づけると……突然、鏡が黒く染まり、そこから何本もの手のようなものが生えた。黒い手は三人を引っ掴み、鏡の黒色の中に引きずり込んでしまった。
その日の夜。彼らの住まう村で村民たちが彼らを探していた。
金髪の少年の家では両親が血眼になって我が子を探した。
黒髪の少年の家では、父親が母親を怒鳴りつけ、周りの人たちに止められていた。
少女の家では、かわいい我が子の失踪に両親を始めとした家族全員が呆然としていた。
村民たちによる捜索は、数日間にわたって続けられた。その間村民たちは仕事そっちのけどころか、飯もろくに食わずに子供たちを探し続けていた。それだけみんな、子供たちのことを大事に思っていたのだ。
だが、とうとう子供たちは見つからなかった。
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