後編 死の真相

 食事とお風呂を済ませてそっと抜け出し、バラ園へ足を向ける。盛りが過ぎて花びらが散り、枯れかけの花がほのかな月明かりに姿を晒している。


「……やはりいらっしゃいましたね」

「そりゃ呼ばれたから……」

「面通しの反応で、すぐに分かりましたよ。殿下は私を覚えていて、知らない振りをしているのだと」

 ゲームで知ってたって言えなかっただけなのよ。呼び出しまでして確かめる? 誤魔化せる雰囲気でもないし、適当に相づちを打っておこう。

「……まあね」

「……さすがに自分を殺した相手を忘れないものですね。あなたに顔の割れていない者を刺客に使ったのに、聡明なあなたの目は誤魔化せなかったのでしょう」

 殺した? 自分からダンジョンに挑んだんじゃなかったのね?

 私は肯定も否定もせず、次の言葉を待った。


「あなたの執念も大したものだ。まさかスケルトンになり、復活まで果たすとは……」

「……私を殺した目的は、なんなの?」

 遠回りな話が続きそう。単刀直入に尋ねた。

「それが聞きたくて、死にきれなかったんでしょうね。……貴女は優秀すぎたのです。女王陛下の即位を脅かすほどに。ですから私が災いの根を絶ったまで」

 つまり、姉が女王になる邪魔だからダンジョンで殺したと……?

 私は女王の座を望んでいたんだろうか。今となっては、もう確かめる術もない。

「それを私に話すってことは……」

「今度こそ確実に、死んでいただきます。出ろ!」


 なんとバラ園には宰相の手の者がたくさん潜んでいた。

 私の武器は、護身用にいつも身に付けている短剣だけ! 護衛にも知られないように来ちゃったよ、失敗したわ。無駄に有能な自分が憎い。多勢に無勢だ。逃げようとしても、完全に包囲されていた。

「見上げた愛国心ね、宰相!」

「これで最後だ。なんとでも言うがいい!」

 宰相の手下が襲いかかる。バラ園に血を残したら、所業がバレそうのに。それだけ切羽詰まっているのか、揉み消す自身があるのかね。

「誰かー! 来てー!!!」

 私は叫びながら敵の剣を受け、なんとか防いだ。別の相手の剣が、二の腕を掠める。ひいい、一気には無理!


「うわあああ!」

 包囲網の一角で叫び声がした。気付いて助けに来てくれた人がいるのね!

 希望が湧いたわ! せっかく生き返ったんだし、生きるんだ!

 助けてくれたのは誰か……。私の瞳に写るのは、スケルトンだった。骸骨仲間が洞窟を出て、助けてくれた……!??

「なぜここにスケルトンが!??」

「こっちからも来た!!!」

「ミツヒデ、カツイエ、イモコ!」

 みんなが来てくれたわ! スケルトンはザッシュザシュと、無慈悲に人を倒していく。友情って素晴らしい!


 形勢逆転したところに、新手が登場した。

 敵か味方か……、あれは近衛兵の肩章だわ。近衛兵を引き連れているのは、三十代半ばの女性。

「……宰相、あなたを信じていたのに……」

 月明かりの夜に沈む、黒い長い髪。私とどことなく似ていて、年は親子ほど離れている。姉である女王陛下に違いない!

「女王陛下! 私は陛下の為にしたのです。マーセイディズ様は優秀で、貴族の間でもどちらが即位すべきか、意見が分断されていました。あのままでは内乱が勃発ぼっぱつした恐れもあります。しかし王族としての気質と気品を備えていた陛下こそ、女王に相応しいお方でした!」


 宰相は私を始末するべきだと、女王に訴えかける。女王はふるふると肩をふるわせた。

「……マーセイディズは、わたくしの大事な妹です! 彼女は私の助けになると誓ってくれていました。わたくしの剣となるべく、ダンジョンを攻略すると言っていたのです。その想いを利用して妹を死に追いやったあなたを、どうして許せましょう……!」

「私は陛下を女王にするために、何でもする所存です。陛下の許しさえも要りませぬ!」

 女王の言葉にも、宰相は揺るがない。近衛兵はスケルトンと宰相の手下、どっちと戦えばいいのか困惑気味だ。


「あなたが私を誰より想ってくれていたのは、気づいていました。あなたを疑いたくはなかった……、この気持ちが事件の解決を遅らせてしまったのね。ですがよみがえったマーセイディズが、あなたを見た時の反応で確信しましたわ。彼女は他の全てを忘れても、自身を死に追いやったあなたを覚えていると! そして今も、許してはいないのだと……!」

 二人とも私の知らない私を読み解いてるゥ! 妄想がたくましすぎるわ!

 私はただ、「あー、ゲームではこの人がいる時は、女王は不在ですって会わせてもらえないんだよな~」って、思い出してただけだから!

 っていうか、女王はどこかから私を見てたの? 全然気づかなかったよ。


「あ、スケルトンは私の味方です!!!」

 危なく近衛兵に倒されるところだったので、攻撃しないようにお願いした。

 あとは人間に任せましょう。私はスケルトンたちに、下がるように呼びかけた。なんとなーく伝わるような、そうでもないような。

 私の言葉が理解できたのか、スケルトンはカクカクと口を動かし、闇にそっと消えていった。ありがとう、みんなー!


 スケルトンを見送りつつ、近衛兵が宰相一味を捕えるのを高みの見物していた。

 いつの間にか王である姉が隣に立って、泣きそうな瞳で私を見ている。

「マーセイディズ……、まさかまた会えるなんて」

「……女王陛下、私は本当に自分が誰かも覚えていないんです」

 切なそうな彼女に、下手な嘘はつけない。本当に妹なのかも分からず、悔しいような悲しいような気持ちがあふれる。

「あなたは私の妹のマーセイディズよ。いなくなった時の姿、そのままなのよ。あなたを失って、父と母がどれだけ嘆いたか……。心を弱くされて、病に負けてしまったのね。数年で崩御されたの。あなたの呪いだと騒ぐ人もいたけど、私の妹はそんな人間じゃないと知っていたわ」


 女王は私を優しく抱き締めて、確かめるように背中を撫でた。頬から涙がこぼれ落ちる。

「……宰相は、どうして私を殺す選択をしたんでしょう」

 両親が悲しむのだって分かってただろうし、即位なんてまだ後の話だったのに。十六歳だよ、日本なら高校生よ。

「そうね、十六歳と言えばお父様が立太子された年齢だったの。それで焦ったのね……」

 なるほど、指名される前に片付けたかったのか。そんな時に、私が呑気にダンジョンに挑んじゃったから、今だと思っちゃったのかな……。

 ……いやいや、同情できないわ。


 その後、私は女王陛下の妹と認められたが、二十年前の姿のまま公に出られるわけもなく。表向きは行方不明のままになった。

 身元引き受け人として、魔法使いウォーレンの実家であるリネカー公爵家の養女となり、貴族令嬢としての必要な知識やマナーを教わっている。この世界についてはゲーム知識しかないから、ちゃんと知っておかないとね……。


 宰相は死罪。本来なら反逆罪は一族に類が及ぶのだが、今回は恩情が与えられた。罰がないわけではない。女王陛下は宰相の奥さんとも親しかったらしいし、辛いだろうな。

 王子ブランドンと聖女アシュリーの婚約は大々的に公表され、国はお祭りムードになっている。二人は幸せそう。

 女剣士レイリンとは仲良くなって、たまに一緒に稽古をしているよ。

 魔法使いウォーレンはスケルトンから甦った私に興味を持ち、スケルトン時代の話ばかり聞きたがった。研究対象として、見られてるような……。

 ちなみにスケルトン達は、今もダンジョンで平和に暮らしている。私がダンジョンに行くと集まってきて、楽しそうにカタカタ顎を鳴らすようになった。すっかり友達感覚だわ。スケルトン軍団を作るのもいいかもなあ。


 ま、そんなわけでクリア後のゲーム世界でぼちぼち暮らしているよ。

 城にも慣れたし、次は色々な町を訪ねるのが目標! 楽しみだなあ。

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転生したらスケルトンでした…って、生きてない! 神泉せい @niyaz

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