死にたいだけの俺が骸骨になった話する?

飛馬ロイド

第一話 死ねない呪い

 絶望から解放されたかったのに、天はそれを許さないらしい。


 アパートの自室で死ぬつもりだったけど、訳あり物件になって管理会社なんかに迷惑をかけるのも忍びないと思った俺は町はずれの廃屋に向かった。


 時々、大学生や高校生が忍び込んで肝試しをしているらしいが、どうやら今は誰もいないようだ。既に日は落ち、あたりはすっかり暗くなっていた。俺は首をくくるためのロープとスマホだけを持ってきていた。


 死を決意して、こうしてアパートから廃屋まで歩いくる途中、色々なことを考えていた。仮に両親が生きていたら、もっと親戚を頼っていれば、親友だと思っていたあの男のことをもっと観察していれば。


 ただ、廃屋に着く頃には、たらればを考えても意味ないなと思い、むしろ死への覚悟が高まったように思う。


 肝試しに使われるだけのことはあって、廃屋の外観は不気味だった。家の外壁はツタで覆われ、見えている外壁も色がくすんでいた。家の周囲は雑草が膝の高さまで伸びていて、来る者を拒むように思えた。


 一瞬、廃屋の不気味さに心が折れそうになったが、意を決して、俺は誰も住んでいない家への不法侵入を試みた。


 当然だが、電気などついていないので、家の中は完全な闇だった。俺はスマホの画面で周囲を照らしながら家の中を歩き、首を括るのに適当な梁などがないかを探した。


 和室に欄間があるのを見つけた俺は、ここにひもをかけることにした。古い昔ながらの家で、畳敷きの部屋が多い。ただ、どの畳も腐っていて、畳独特のイグサの香りはしなかった。

 

 俺は欄間にひもをかけるために、適当な足場にできそうなものを探した。すると、何やら視線を感じた。誰かいるのかと思い、視線のする方を見た。しかし、そこに人はおらず、ただの真っ暗な廊下だった。


 誰かが家の中にいて、自殺を止められたら敵わない。そう思った俺は準備を急いだ。手ごろな椅子を洋間の方から持って来て、欄間にひもをかけた。すると再び視線を感じた。今度は椅子を持って来た洋間の方だった。


 やはり誰もいない。


 何となくやりにくさを感じつつも、ここで止めたら決意が鈍ると思い、俺は輪になった部分に頭を突っ込み、覚悟を決めた。


 もはやこの世に未練はない。


 生まれ変わったら、贅沢は言わないから普通の家庭で、普通に生きていきたい。


 あるいは異世界に転生して剣と魔法で無双して、可愛い女の子に囲まれて、魔王とか倒したい。


 そんなことを考えながら、俺は乗っている椅子を蹴り、首を括った。その瞬間、周囲から見られている違和感を感じたが、次の瞬間には俺は真っ暗などこかにいるような感覚になっていた。


 

 意識がある。


 どうやら死ねなかったようだ。


 俺は真っ暗な部屋で天井を見つめていた。視界の端に欄間からつるされたひもが見えた。どうやら、ひもが切れて俺は落ちてしまったようだ。


 やれやれ、ひもはこれしかないのに。新しく買う金もないのに。この廃屋で探すしかないか。


 そんなことを考えながら俺は起き上がり、頭を掻いた。その時、妙なものが視界に入った。それは白い棒状のものと、白い欠片の集合体だった。


 端的に言えば、それは骨だった。


 しかし、その位置には俺の手と腕があるはずだった。俺は思わず、自分の両手を眼前に掲げた。


「え、なにこれ?」


 思わず声が出てしまった。俺の手が骨になっていた。焦った俺は顔を触った。しかし、顔はそこにあるし、おかしなところはない。俺は鏡がないか周囲を見回した。床に落ちているスマフォを見つけると、フロントカメラで自分の顔を確認した。


「わぁーーーー、骸骨!」


 そう、俺の顔は髑髏どくろになっていた。俺は何が起きているのか分からず、あたりをウロウロと歩き回った。そして、ふと一つの結論に至った。


「つまり、俺は死んで、幽霊になったということか」


 きっと幽霊になったからこんな不気味な姿になったのだと考えた。その意味では、周囲に俺の肉体が転がっているはずだが、それは誰かが回収したとかそういうことだと考えることにした。


「いや、君は死んでないよ」


 唐突に背後から声が聞こえて、俺は飛び跳ねるほどびっくりした。


「え、誰?」


 振り返ると、そこには俺より少し年上の涼やかだが、きりりとした目つきが印象の男性がいた。端的に言えば、男性アイドルグループにいそうなイケメンだ。


「俺は、その、いわゆる幽霊ってやつだよ。つい最近、交通事故で死んだんだ」


 そっちが幽霊なのかよとツッコミをいれそうになった。


「え、あなたはどう見ても人間に見えるけど・・・ あなたが幽霊で、見た目骸骨の俺が幽霊じゃないってこと?」


「そう、あんたは呪われたんだ」


 疑い掛けたが、この状況だ信じるしかない。


「呪われたって、誰がそんなことを」


 男性は少し考えるそぶりをした後、ニヤッと笑ったかと思ったら、俺を見つめてこう言った。


「俺が呪ったんだ」


「え、なんでそんなことを」


「あんたに俺の言うことを聞いてもらうためにな」


「は? 知らないよ。俺は死にたいんだ。そういうことはもっと他に余裕がある人に言ってくれよ」


「俺の言うことを聞かなくても良いけど、あんた今のままじゃ自殺できないよ」


 俺は場所を移そうと考えたが、今の言葉を聞いてイケメンの方を振り返った。


「どういうことだよ」


「今のあんたは、生きてもいなければ、死んでもいない曖昧な状態なんだ。生きてないから自殺しても死ねないし、死んでないから腹は減るし、眠くもなる。中途半端な状態だ」


 俺は口を開けて茫然とするしかなかった。

 

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