4  ハネス王国の裁き

 ギンジ一行が国境を越える数日前…。



 ハネス王国の城内、荘厳な玉座の間では、緊張した空気が漂っていた。王はその場に居並ぶ兵士たちを見回し、重々しく口を開く。


「港町での突然の落雷…。生き残った町民の話では、雷轟のような声が空に響き渡ったそうだ」


 ハネス王の声に応じて、ひざまずく鉄銀兵団が声高らかに述べる。


「我々が調べた限り、魔人の仕業である可能性が高いかと存じます!」


 王はその言葉を受け、顎に手を当てて考え込んだ。


「やはりそうか…。だが、なぜこんなにも早く…。これまでの平穏は何だったのだ」


 その問いに答えるかのように、鉄銀兵団が進み出る。


「ハネス王!我々鉄銀兵団は対人戦を得意とする部隊であり、人型の魔人との戦闘にも対応可能でございます。魔人討伐の任は、ぜひ我々にお任せください!」


 王は彼らを見つめ、その目に慈愛の光を宿しながら頷いた。


「あぁ、心強いな。ただし、決して命を無下にするな。全員生き残れ。それがおぬしらの使命だ」


「は!ありがたいお言葉!」


 鉄銀兵団は感激の面持ちで頭を垂れる。その場を去ろうとする鉄銀兵団と入れ替わりに、ひとりの老魔導師が玉座の間に入ってきた。


 すれ違いざま、鉄銀兵団が小声で呟く。


「む…この老人、死体の匂いがする…」


 腐敗臭のようなものを感じたが、失礼に当たると考え、その場で黙り込む。


 老魔導師が王の前にひざまずくと、低く重い声で挨拶を述べた。


「この度は、王宮にお招きいただきありがとうございます」


 王は静かに問いかける。


「今回の落雷の件、魔導師たちの見解も聞かせてくれ」


 その言葉に魔導師は微笑を浮かべ、手を組んだ。


「答えを持参いたしました。しかし、今度は騒ぎなど起こしませんぞ…」


 その瞬間、玉座の間に閃光が走った。


 目が眩んだ王が視界を取り戻したとき、近衛兵たちはすべて倒れていた。


「なぁ?もっとド派手にやらせてくれよ、先生。これじゃ静かすぎてつまらねぇだろ」


 老魔導師の隣に突如現れたのは、髪を逆立て、獣のような牙を持つ人間――否、魔人だった。


「ま、魔人…!」


 王の驚愕の声を余所に、魔導師のローブが動き出し、隠れていた右手から老いぼれた竜の首が現れた。その竜は魔人に向けて炎を放つ。


「ぐああああ!」

 魔人の身体は黒焦げになり、その場に崩れ落ちた。


「この愚か者が私の教えに背き、港町で愚行を働いたことをお詫びします」

 魔導師の声が玉座の間に響く。


「我が名はドラカイナ。竜獄族の族長です。この度、ハネス王に全王国民安楽死計画の提案を申し上げたく参上しました」


「安楽死…だと?」


 その言葉に、王の表情は困惑に包まれる。


「我々魔人の神がお目覚めになろうとしております。しかし、人間は増えすぎました。我々は神を美しい世界でお迎えしたい。それゆえに人間を滅ぼす必要があるのです」


       みぃ

              ?

「そんな勝手な理屈が通るものか!」

 王は怒りを込めて声を張り上げる。


「生きる権利は、我々にもある!」


 その言葉とともに、王の左手に嵌められたリングが光り輝き始めた。


「魔導力とは自然の恵みだ。大地から溢れるその力を、我が国は蓄えてきた!」

 玉座の後ろにある巨大なガラスが眩い光を放つ。


「8年分の大地の魔導力、今こそ解放する!」

 その言葉を合図に、城内を激しい震動が襲った。


「喰らえ!ハネス王国の裁き!」

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