転生探偵、推理小説の中を彷徨う

三坂鳴

第1章 再来する物語の冒頭

第1話 死からの目覚めと、もう一つの世界

■主要登場人物

1. 青柳シキ(あおやぎ しき)〔主人公・転生者/探偵役〕

 前世名: 小田切 透

 外見: 30代前半に見える細身の男性。小説の挿絵に描かれていた通りのビジュアル(短めの黒髪、青みがかった瞳、やや童顔)。

 性格:

 前世では小心で、実践経験は皆無ながら推理小説を読むのが唯一の趣味だった。

 転生後は“名探偵”として振る舞わねばならないが、自分の知識と小説の世界観の微妙なズレに戸惑う。

 正義感が強く、最後まで人を救おうとする意思がある。


2. 大城カナト(おおしろ かなた)〔元舞台俳優〕

 外見: 40代半ば。長身でオールバックの髪、ややギョロリとした鋭い目つき。

 性格:

 表面上は気さくな雰囲気だが、内面はプライドが高く猜疑心が強い。

 舞台が好きで、“演出”を仕掛けることに生きがいを感じる。

 演技力、発声・身振りが上手。ウソや取り繕いが巧み。

 舞台仕掛けのトリックに精通。


3. 橘リク(たちばな りく)〔実業家〕

 外見: 30代、スーツを着こなすビジネスマン。切れ長の目とメガネがトレードマーク。

 性格:

 常に冷静、損得で動くタイプ。

 周囲に敵を作りやすいが、交渉力には長けている。


4. 橘ミズハ(たちばな みずは)〔リクの妻/保育士〕

 外見: 20代後半、柔和な雰囲気。ショートボブ、細身。

 性格:

 優しく穏やかだが、心労が重なると黙り込むタイプ。

 子供好きゆえに純粋な正義感を持つが、詰めが甘い。


5. 星野フユカ(ほしの ふゆか)〔謎多き女性〕

 外見: 30代。黒髪ロングを緩く束ねた上品な容姿。色白で物静かな印象。

 性格:

 寡黙で感情をあまり表に出さない。

 冷静沈着だが何を考えているか分からないミステリアスさがある。


6. 黒沢ナナ(くろさわ なな)〔ジャーナリスト〕

 外見: 30代前半。短髪でパンツスーツ、いつもカメラを携行。

 性格:

 探求心旺盛。事件の匂いがすれば首を突っ込む。

 強引な取材手法を厭わないが、正義感は本物。


7. 瀬良ユウタ(せら ゆうた)〔島の管理人/陽気な青年〕

 外見: 20代半ば。茶髪、動きやすいラフな服装。健康的な笑顔。

 性格:

 人懐っこく、フレンドリー。

 大雑把で細かい気遣いは苦手だが、根は善良。


8. 多胡 マサト(たご まさと)〔島の雑務や館内管理〕

 外見:20代後半。背は高めで体格はしっかりしているが、やや童顔。実直そうな 雰囲気を漂わせ、いつも動きやすい服装をしている。

 性格:素朴で柔和な性格で、誰にでも分け隔てなく声をかけるタイプ。思いついた ことを率直に話すため、ときに周囲を驚かせることも。



 小田切透は自分が道路に投げ出される光景を最後に、すべての意識を手放していた。

 それまでの平凡な会社勤めに疲れてはいたものの、死ぬほどではないと常々思っていた。

 しかし、あの日の信号無視の車は容赦なく彼をはね飛ばした。

 痛みを感じる間もなく視界が一瞬で暗転し、次に目を開いたときには知らないベッドで寝かされていた。


「ここは……どこだ?」と呟いて起き上がると、部屋の窓から広がるのは荒涼とした海と灰色の空だった。

 窓枠は重厚な木製で、壁には古めかしいランプが取り付けられている。

 とても現代日本のビジネスホテルではない。

 脳裏には、死んだはずの自分がなぜ生きているのかという疑問が渦巻いていた。


 枕元の鏡に映った自分に違和感を覚えた。

 前世と変わらない顔立ちながら、髪は少し短く整えられ、目の色が青みがかっている。

 さらにベッドサイドに置かれた小さな札には「青柳シキ様」と書いてあった。

 聞き覚えのある名前だと思い、胸がざわつく。


 その名前は、透が生前に何度も読み返した推理小説の主人公のものだった。

 タイトルは『幻影の岸辺を歩く探偵』。

 孤島の洋館で起きる連続殺人を、名探偵・青柳シキが解決するというストーリーだったはずだ。

 しかし今の状況はどう見ても小説の挿絵そっくりの部屋で、しかも自分は死んだはずなのに動いている。

 すべてが理解を超えていた。


 あわてて部屋を出ると、廊下は赤い絨毯が敷かれ、シャンデリアがぶら下がっている。

 遠くからは波の音が途切れ途切れに聞こえ、風が唸るような音を立てていた。

 この屋敷の外は海に囲まれているらしい。

 まさか、本当にあの小説の世界に迷い込んだのかとしか思えない。


 廊下の角では、雑用係の多胡マサトという若い男が掃除道具を抱えてうずくまっており、「すみません、大丈夫ですか?」と声をかけると、軽く頭を下げて去っていった。

 どうやら彼は島で雑務や倉庫の管理などを手伝っているらしい。

 だが、今の透にはそんな彼の様子を気に留める余裕もなく、ただ呆然とするばかりだった。


 しばらくして、背後から足音が近づいた。

 振り返ると、茶髪で快活そうな青年が立っている。

「お客さん、体は大丈夫ですか? ここは大丈夫な場所じゃないかもしれませんよ」

 そう言って苦笑する彼は、瀬良ユウタと名乗った。

 島の管理人らしい。

 透は咄嗟に「青柳シキ……です」と自分を名乗り、言葉に戸惑った。

 本当にその名で通っているという事実を思い知らされる。


 戸惑いを抱えつつも、透は頭を振って動揺を抑えようとした。

 自分はどうやら“転生”してしまった。

 しかも、小説そっくりの世界で、青柳シキとして。

 なぜそんなことが起きたのかは分からないが、とにかくここから脱するには事態を把握するしかないと思い、探索を始める決意を固めた。


 ――どうして自分が推理小説の名探偵に。

 そんな問いを胸に宿しながら、透は重苦しい洋館の空気をひしひしと感じていた。


(あとがき)

 第1話、お疲れさまでした。

 いきなり事故死とは驚きですね。

 しかも、転生先は異世界ではなく、推理小説の主人公だなんて、珍しいパターンです。

 彼は本当に推理ができるのでしょうか。

 皆さんはどう思いますか?

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