第5話 修行

ー現在よりほんの少し前ー


「光、魔法は使えるか?」


「魔法なんて使えるわけないじゃないですか。」


僕はこの呪いを渡され、あの二人組が目の前に現れるまで魔法なんてファンタジーの世界の中だけで、現実世界にも存在するなんて微塵も思っていなかったのだから使えるわけがない。だが、正直魔法がこの世に存在することに喜びを感じていた。やはり、魔法というのは憧れであり人生で一回は使いたいと思ったことはある。そんなものが存在すると分かったのだこれは喜ばずにはいられない。


「それは困ったな。魔法が使うことができなければ呪いを使いこなすなんてほぼ不可能だし、今から魔法を使えるようにするまでは中々時間がかかる。それにあれを使うにも…」


「魔法を使えるようにする裏技的なものが何かあるんです?」


「あるにはあるが…かなりリスクを伴うんだ。もし失敗すれば二度と魔法が使えなくなるかもしれない。だが成功すれば今すぐにでも微量だが魔法が使えるようになるだろう。その覚悟はあるのか?」


僕がこの呪いを使いこなせないまま、またあいつらみたいなやつが襲ってきたら仁が足手まといをかばい、一人で戦わなければいけないということだ。そうなるといくら仁が強くともどうしようもなくなり二人共どもゲームオーバーになるだろう。そんなことになるならば多少のリスクを負ったほうが賢明だ。


「あります。」


「ほんとにいいんだな?それなりに痛いぞ?」


「痛みならもっとつらいやつを食らってますよ。それに魔法を使えるようになるなんて夢見たいです。」


「魔法使いなんてそんなにいいものじゃないさ…まぁ早速準備に取り掛かろうか。」


そういうと仁はポケットから携帯を取り出しどこかに電話をし始めた。


「七草だ。魔力が詰まった結晶と儀式用の魔導書を用意してくれ。準備ができ次第取りに行く。」


仁は電話を切りハイライトの入っていない瞳で僕のほうを見つめた。


「なんですか?」


「そういえばどうやってカナリから呪いを受け継いだのかとを聞いてなかったと思ってね。良ければ聞かせてもらいたい。」


僕はカナリから力を渡された経緯を仁に話した。無理やり渡されたこと、ビッガとかいうやつに襲われたこと、気づいたら町がきえていたこと。それを聞いた仁はどこか怒りを覚えているような声色で言う。


「それはすまなかった。俺にも責任がある。予想はしていたが、あいつはやったのか…」


カナリのことについて聞きたかったが仁の怒ったところは怖くて縮こまってしまい聞けずじまいになってしまった。少しの間の沈黙が続いていると、それを打ち壊すように仁の携帯の通知音が鳴った。


「もしもし。七草だ…ありがとう、今そっちに向かう。よし行こうか。」


「どこに行くんですか?」


「俺の拠点みたいなところだ。ついてきてくれ。」


そういう仁に僕はほんの少しの期待を抱きついていった。歩き出し少し行ったところで仁は立ち止まり、地面に手をかざすとどこからともなく魔法陣が現れた。


「これはもともと最初から設置してある魔法陣でね、これを使えば別の設置されている魔法陣がある場所に飛ぶことができる。ここに来たのもこれさ。」


仁にレクチャーされ僕がその内容に魔法っぽいと感心している間に、気づけば見慣れない場所についていた。見渡してみると、そこは森の中で目の前には小さな木でできた一軒家がポツンとあり入り口にはスーツを着た女が立っていた。女は近づき話しかける。


「これ例のものだよ。」


「ありがとう。」


その女は僕に気付くと僕を見ながら仁に聞いた。


「そいつが黒の呪いの被害者かい?カナリもやってくれたもんだねぇ…」


「あぁ…そうだね。そうだ、紹介が遅れたね。彼女はタリヤ・ベリン。僕の仲間だ。」


「よろしくね。」


「よろしくお願いします。」


「そしてこっちは平 光君。先も言った通り今の呪いの保持者だ。初対面で聞きたいこともあるだろうけど今は少し急いでいてね。すぐにでもいどうさせてもらうよ。」


仁と僕はまた魔法陣を使いワープをしたが、その先は元居た場所ではなく地平線まで広がっている平原だった。心地よい風が吹き、周りに人影はなく、見晴らしがよく今まであった嫌なことを忘れられるような場所だった。


「さて…じゃあ儀式の準備を始めようか。この結晶をもってそこに立ってもらえるかな。」


僕は緊張しながら言われるがままに指定された場所に移動し結晶を受け取った。


「それじゃあ、始めるよ。」


仁は魔導書を開き、詠唱を唱え始めた。僕にはそれが何と言っているのか全く理解できなかったが突然結晶が光を帯び始める。それと同時に結晶を持っている手に痛みを感じ始めた。


「痛っ…!」


「結晶が消えるまでそれを離してはいけないよ。」


仁はそういうがこの痛みはかなりのものである。それに耐えていると、痛みはどんどん全身に広がっていきやがて激痛に変わった。


「グゥ…!いつになったら消えてくれるんだよ!こいつは!」


一秒でも早く結晶が消えることを願いながら全身を針で刺されるかのような激痛に耐えていると、少しずつ結晶が先端から消えていっているのを感じた。


「やった!」


喜んでいるのも束の間、右手の人差し指に体中のすべての痛みが集結する。その痛みに耐えられず結晶を離してしまいそうになった瞬間、人差し指から光線の様なものが飛び出していき、気づいたころには結晶は消え去っていた。僕は何が起こったのかわからず不安で仁を見る。


「儀式は成功だ。本当によくやったよ。」


仁のこの言葉に安堵しながら僕は突然気を失った。


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