第16話

「試験開始!」


ガイルの合図が響いた瞬間、ルミナの手元に魔法陣が浮かび上がった。


「――《ウィンド・ブレード》。」


ルミナの静かな声とともに、鋭い風の刃が数本、僕へ向かって一直線に放たれる。


(うわっ、もう攻撃してきた!?)


慌てて横に飛んで回避する。目の前をかすめた風の刃は、そのまま訓練場の石床に突き刺さり、小さな亀裂を生じさせた。


(あれ、喰らったら普通に大怪我するやつだよね!?)


試験と言われたから少しは手加減してくれるかと思っていたが、どうやらそんな甘いものではないらしい。


「さすが、反応は悪くありませんね。でも、次はどうでしょう?」


ルミナが杖を振ると、今度は炎の球がいくつも生成され、僕の周囲に浮かび上がった。


「《フレイム・バースト》。」


次の瞬間、炎の球が一斉に爆発した。


(え、待っ――)



爆風が訓練場全体に広がり、周囲の観客からどよめきが上がる。


「……試験開始直後で決着か?」


ガイルが腕を組んで様子を見守る中、煙が晴れていく。


そして、そこに立っていたのは――


「……ギリギリ、避けられた……。」


焦げた服の袖を払う僕の姿だった。


観客席から驚きの声が上がる。


「今のを回避しただと!?」


「彼、本当に素人なのか……?」


(違います!! 素人だから、必死に逃げただけです!!)


本当に運が良かっただけだ。たまたま地面を蹴って転がる方向を変えたら、爆発の中心から外れていた。それだけの話だ。


だが、周囲はそうは思っていないらしい。


「やはり、レオン様は本物……!」


「彼が王国を導く存在となるかもしれませんぞ!」


(だから違うって!!)


「面白いですね……。」


ルミナの表情が変わる。彼女はゆっくりと微笑みながら、再び杖を構えた。


「では、もう少し本気を出してみましょう。」


(今まで本気じゃなかったの!?)


僕の絶望は、さらに深まっていく――。



(まずい……! このままだと確実にやられる!!)


僕は必死に頭を回転させる。正直、戦闘経験なんてないし、魔法の知識もほとんどゼロだ。回避できたのは偶然だし、これ以上の攻撃を受け続ければ、いずれ限界がくる。


「さあ、次の一手をどうしますか?」


ルミナは余裕の表情で杖を構えている。その瞳には、まるで獲物をじっくりと追い詰める猛禽類のような鋭さがあった。


(……どうする!? 何か、何か方法は――)


そのとき、ふと昨日のことを思い出した。



――昨夜。王宮の書庫にて。


「レオン様、魔法について少しでも理解しておくといいですよ。」


イリスが持ってきたのは、魔法の基礎が書かれた本だった。


「特に、魔法は術式を理解し、相手の行動を予測することが重要です。」


「……予測?」


「ええ。相手がどの属性を使うのか、どの術式を展開しているのかを見極められれば、適切な対処ができます。」


「でも、そんなの僕には無理じゃ……?」


「大丈夫です。レオン様は"魔力測定不能"ですから。」


イリスは意味深に微笑んでいた。



(……そうだ! ルミナの魔法を見極めれば、何とかなるかもしれない!!)


僕は深呼吸し、ルミナの動きを注意深く観察することにした。


「――来ますよ。」


彼女の杖が再び光を帯びる。


(今度は……風!?)


彼女の手元に小さな風の渦が生まれる。


「《ウィンド・ランス》。」


風が槍の形に変わり、僕の胸元めがけて一直線に飛んできた。


(読めた……!)


僕はギリギリのタイミングで横に飛び、槍を回避する。槍はそのまま地面に突き刺さり、小さな爆風を巻き起こした。


「おや……今のを避けましたか。」


ルミナが驚いたように目を見開く。


(これだ……! ルミナの魔法を見極めれば、何とかなる!!)


だが、油断はできない。


「では、次はどうです?」


彼女はすぐに次の魔法を詠唱し始めた。


今度は……炎か!?


「《フレイム・ストーム》。」


周囲に熱風が吹き荒れ、僕の足元に火の渦が巻き起こる。


(マズい! 逃げられない!!)


一瞬の判断で、僕は地面を蹴り、炎の渦から飛び出した。


「――っ!」


何とか脱出できたものの、熱波が肌を焼き、服の一部が焦げる。


「ほう……予想以上ですね。」


ルミナが口元を楽しげに歪めた。


「ならば、もう少し試してみましょうか。」


(まだ続くの!?)


僕の試練は、終わるどころか、さらに苛烈になっていくのだった――。



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