第16話
「試験開始!」
ガイルの合図が響いた瞬間、ルミナの手元に魔法陣が浮かび上がった。
「――《ウィンド・ブレード》。」
ルミナの静かな声とともに、鋭い風の刃が数本、僕へ向かって一直線に放たれる。
(うわっ、もう攻撃してきた!?)
慌てて横に飛んで回避する。目の前をかすめた風の刃は、そのまま訓練場の石床に突き刺さり、小さな亀裂を生じさせた。
(あれ、喰らったら普通に大怪我するやつだよね!?)
試験と言われたから少しは手加減してくれるかと思っていたが、どうやらそんな甘いものではないらしい。
「さすが、反応は悪くありませんね。でも、次はどうでしょう?」
ルミナが杖を振ると、今度は炎の球がいくつも生成され、僕の周囲に浮かび上がった。
「《フレイム・バースト》。」
次の瞬間、炎の球が一斉に爆発した。
(え、待っ――)
◆
爆風が訓練場全体に広がり、周囲の観客からどよめきが上がる。
「……試験開始直後で決着か?」
ガイルが腕を組んで様子を見守る中、煙が晴れていく。
そして、そこに立っていたのは――
「……ギリギリ、避けられた……。」
焦げた服の袖を払う僕の姿だった。
観客席から驚きの声が上がる。
「今のを回避しただと!?」
「彼、本当に素人なのか……?」
(違います!! 素人だから、必死に逃げただけです!!)
本当に運が良かっただけだ。たまたま地面を蹴って転がる方向を変えたら、爆発の中心から外れていた。それだけの話だ。
だが、周囲はそうは思っていないらしい。
「やはり、レオン様は本物……!」
「彼が王国を導く存在となるかもしれませんぞ!」
(だから違うって!!)
「面白いですね……。」
ルミナの表情が変わる。彼女はゆっくりと微笑みながら、再び杖を構えた。
「では、もう少し本気を出してみましょう。」
(今まで本気じゃなかったの!?)
僕の絶望は、さらに深まっていく――。
◆
(まずい……! このままだと確実にやられる!!)
僕は必死に頭を回転させる。正直、戦闘経験なんてないし、魔法の知識もほとんどゼロだ。回避できたのは偶然だし、これ以上の攻撃を受け続ければ、いずれ限界がくる。
「さあ、次の一手をどうしますか?」
ルミナは余裕の表情で杖を構えている。その瞳には、まるで獲物をじっくりと追い詰める猛禽類のような鋭さがあった。
(……どうする!? 何か、何か方法は――)
そのとき、ふと昨日のことを思い出した。
◆
――昨夜。王宮の書庫にて。
「レオン様、魔法について少しでも理解しておくといいですよ。」
イリスが持ってきたのは、魔法の基礎が書かれた本だった。
「特に、魔法は術式を理解し、相手の行動を予測することが重要です。」
「……予測?」
「ええ。相手がどの属性を使うのか、どの術式を展開しているのかを見極められれば、適切な対処ができます。」
「でも、そんなの僕には無理じゃ……?」
「大丈夫です。レオン様は"魔力測定不能"ですから。」
イリスは意味深に微笑んでいた。
◆
(……そうだ! ルミナの魔法を見極めれば、何とかなるかもしれない!!)
僕は深呼吸し、ルミナの動きを注意深く観察することにした。
「――来ますよ。」
彼女の杖が再び光を帯びる。
(今度は……風!?)
彼女の手元に小さな風の渦が生まれる。
「《ウィンド・ランス》。」
風が槍の形に変わり、僕の胸元めがけて一直線に飛んできた。
(読めた……!)
僕はギリギリのタイミングで横に飛び、槍を回避する。槍はそのまま地面に突き刺さり、小さな爆風を巻き起こした。
「おや……今のを避けましたか。」
ルミナが驚いたように目を見開く。
(これだ……! ルミナの魔法を見極めれば、何とかなる!!)
だが、油断はできない。
「では、次はどうです?」
彼女はすぐに次の魔法を詠唱し始めた。
今度は……炎か!?
「《フレイム・ストーム》。」
周囲に熱風が吹き荒れ、僕の足元に火の渦が巻き起こる。
(マズい! 逃げられない!!)
一瞬の判断で、僕は地面を蹴り、炎の渦から飛び出した。
「――っ!」
何とか脱出できたものの、熱波が肌を焼き、服の一部が焦げる。
「ほう……予想以上ですね。」
ルミナが口元を楽しげに歪めた。
「ならば、もう少し試してみましょうか。」
(まだ続くの!?)
僕の試練は、終わるどころか、さらに苛烈になっていくのだった――。
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