第13話

「レオン様、ご協力いただけるわよね?」


イリスは部屋の中へと堂々と入ってきた。黒いローブの裾を翻しながら、妖しく微笑む。


「い、いやいやいや! もう実験とか勘弁してくれない!?」


「ふふ、大丈夫よ。今回は"痛みを伴う実験"はしないわ。」


「"今回は"って、今まではあったのかよ!!?」


慌てて後ずさる僕を、イリスはすばやく詰め寄り、腕を掴んだ。


「おとなしくして。これは王命でもあるのだから。」


「いや、それ絶対嘘でしょ!? そんな命令、王様から聞いてないぞ!」


「細かいことは気にしないで。さあ、こっちへ。」


僕の抗議は一切聞き入れられず、そのままイリスの研究室に連れ込まれてしまった。



「……で、僕は何をされるんですか?」


研究室に連れ込まれた僕は、中央の魔法陣が描かれた床の上に立たされていた。部屋には数々の怪しげな道具や魔導書が並んでおり、明らかに"普通ではない"空間だった。


イリスは魔法陣の前で本を広げ、何やら詠唱を始める。


「今回は、あなたの魔力の"性質"を調べるわ。」


「僕に魔力なんてないって何度言えば……。」


「測定不能の結果が出たのに、"ない"はずないでしょう?」


(……もうそれは勘弁してほしいんだけど。)


「では、始めるわね。」


イリスが杖を振ると、魔法陣が青白く輝き始めた。


「え、ちょっと!? なんかすごい光ってるんだけど!?」


「心配しなくても、害はないわ。ただ、あなたの体に流れる魔力の波長を解析するだけだから。」


「本当に害ないんだろうな……?」


「ええ、たぶん。」


「たぶん!?」


「ふふっ、冗談よ。信じていいわ。」


(絶対に信じられない……!)



光が収まると、イリスはじっと僕を見つめた。


「……興味深いわ。」


「な、何が?」


「やっぱり、あなたの魔力は普通の人間とは違う。いや、それどころか……"異質"と言うべきかしら。」


「い、異質……?」


「通常、魔力はある程度流れのパターンが決まっているのだけれど、あなたの場合、その流れが不規則で、しかもどんな魔法にも適応できる性質を持っているわ。」


「どんな魔法にも……?」


「ええ。つまり、あなたが本気で魔法を学べば、どんな魔術師よりも優れた力を持つ可能性があるということよ。」


「いやいやいや! 僕、魔法なんて使えないし!」


「まだ気づいていないだけよ。試しに、これを持ってみて。」


そう言ってイリスは、青く光る魔石を差し出した。


恐る恐る手に取ると――


「えっ!? な、なんか手が熱い!」


「やっぱり。あなたの魔力が魔石と共鳴しているわ。」


魔石が淡く光り、僕の手のひらから微弱な光が漏れ出している。


「これ……どうなってるの?」


「あなたの魔力が自然に流れ出ている状態ね。魔法を使う意志がなくても、あなたの体は魔力を放出しているみたい。」


「え、えぇ……。」


「ふふ……やっぱり、面白い存在だわ。」


イリスは満足げに微笑んだ。


「この研究、もっと続けさせてもらうわね?」


「ええええ!? もういいよぉ!!!」


こうして、僕はまたしても"謎の力を持つ存在"として認識されてしまうのだった――。




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