第1章 CROSSとの出会い
第1話 勧誘
「……え?」
……全く訳が分からない。どうして、わたしが……
「突然すぎることはわかってる。でも……本気なんだ。」
それはわかってる。玲さんの目は……真剣なままだ。
「えっ、ど、どうして……」
「端的に言うと……才能があったから、だよ。」
「……?」
「CROSSは……動物の力を使って戦う。朱音さんも見たでしょ?」
「は、はい……」
確かに、ただの人間の玲さんが、大きなカラスに変身して怪鳥をやっつけていた……とても現実のものだとは思えないくらい、凄まじい力だ。
「あの力を扱うのは……ある程度体質を選ぶんだ。詳しくは言えないけど、まぁ向いているか向いていないかは、検査で分かる。朱音さんの結果は、『CROSS適正あり』……」
「……」
「検査をいつやったのか、って?ほら、学校の健康診断で採血されなかった?」
「……されました。あれが……?」
「だってほら、普通高校生の健康診断で採血なんてやらないって……あれ、川添特有の検査なんだよ。CROSSの適正を診断する。」
「え???そんなことできるんですか?」
「あのー……できるんだよ。CROSSは、創設者が
なんて勝手な……それに……
「……なんで、そんなことをする必要があるんですか?だってCROSSって……」
「あ、あぁ、世襲だよ。原則は。」
「そうですよね?」
そう、youtubeでも言っていた。CROSSは創設者の子孫たちが代々受け継いでいる。常識だ。わたしみたいな一般人がなれるものではないはずなのに……
「……でも、あくまでも原則で。例外もあるんだよ。」
「……?」
「いまは私みたいな、比較的若い跡継ぎが不足していて。私の『05』の他に……」
制服の胸元にある「【05-Rei】竹下」と書かれた札を指差しながら、玲さんは続けた。
「『01』、『03』、『04』は正統なメンバーがいる。全員私よりも年下だよ。」
「えっ、『01』って玲さんよりも年下なんですか?結構大人びてますよね?」
「年下だよ。まあ1歳差だけどね……意外だった?」
「はい。」
「ふふっ、そうか……ともかく、本題はその次だ。私がさっき言わなかったナンバー……」
「……『02』ですか?」
「そう。『02』の適任者が今はいないの。つまりは一人、メンバーが欠けている状態……市民の皆さんにはバレないようにしてるけど、今のCROSSの戦闘力は……正直かなりギリギリな状態なんだ。」
「でも、玲さん、強かったじゃないですか!謎の獣だってそんなにしょっちゅう現れるわけじゃないですし、みんなの安全を守るためなら十分じゃ……」
「それだけならね。今は、ちょっと事情が違……」
「……え?」
「……いけない。機密事項だったのに……とにかく、今CROSSはメンバーが足りないんだ。朱音さんには……その穴を埋める才能がある。」
「……」
「CROSSに……なってくれる?」
「……」
「……嫌なら、いいんだよ。誰も強制はしないから……」
……やっぱり訳が分からない。今までのんきに生きていた一般人のわたしが、いきなり、みんなを守るヒーローになる、って……?わたしだって馬鹿ではない。いきなり強大な力を持った人間は、判断力を狂わされるものだ。自分の正義感が暴走して、すさまじい奇行に走ってしまうのもありえる。……正直、自分がそうならない自信がない……
でも……
「……ちょっと、考えさせてください。」
「……?」
「すぐには……決められません。」
保留。
それがわたしの選んだ答え。
正直、自分でも驚きの答えだった。引き受けるメリットもない話だったのに。すぐに断ることもできたはずなのに。……どうして。
「……わかった。決断ができたら、CROSSのSNSにDMして。……アカウント、持ってる?」
「は、はい……でもどうしてSNSに?」
「あぁ、あれ管理者は私だから……」
「なるほど……」
「……体調はもう大丈夫?伝えたいことは伝えたし、今日はもう帰っていいよ。扉を抜けてから左に進めばエレベーターがあるから、そこで1階まで降りて。」
「あ、ありがとうございます……」
結局、その日はそのまま帰った。玲さんが家に連絡を入れてくれていたらしく、夜遅くの帰宅だったが親はいつも通りに迎えてくれた。
明日も学校がある。悶々とした気持ちのまま、わたしは
寝つきはよくなかった。とにかく濃い出来事がたくさんあって、先が全く見えない状態。現実逃避で脳内にファンタジーを作ることが精一杯だったから。
――そしてこの日から1週間も経たずして、わたしがCROSS入隊を決断することを……当然このときのわたしは知る由もない。
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