第18話 そこにある神殿
衝撃的な内容に、今はまだ15歳の心身にはかなりのダメージを受けていたルキヤ達だった。
キルキス村の記録員(当時)の感想が挟まれるほどには、かなり過酷な状況だったり真実が練り込まれていて、このまま読んでもらい続けるには、かなりキツい状態になっていた。
「あ、もうそこまでで良いです係長さん、ありがとうございました。」
割と強メンタルな方であった筈のルキヤが、昔の勇者の話を読んでもらっただけでこんなに疲労困憊になっているのを見たアキラは、
「お前もやっぱり人の子だったんだな~。」
などと言いながらも、目は笑っていなかった。
「いや~!ヤバイヤバイ!勇者の話の真実って一般市民には語られずに、絵本とか物語風にして、軽い雰囲気で伝承されているんだな~って。エルフの森では、勇者一行で魔法を担当していたエルミナ姉さんが居るけど。姉さんは魔王討伐の途中で大怪我して離脱してるんだよね・・・」
係長が読み進めなかった先の記録には、確かにエルミナが負傷して討伐メンバーから外れる記述があった。
「そうです。なので最終的には勇者アルサスだけが、魔王カルスと対峙する事になるんですが、最後はどんな風に魔王を倒したのか?の詳細の記述は無いのです。神歴1584年1月の最後の日、ヴァイラーナムの街に戻って来た勇者アルサスの手には、魔王カルスの遺髪と装束が携えられていた・・・事位しか、魔王を倒した事実は無いのです。ただ、その前の数ヶ月間にユリサルート北部に
係長の補足説明で、勇者アルサスの戦闘の日々の終焉が語られるも、記録員が書ききれなかったと思われる空白の期間が気になった。
何故、数年ほ空白は生まれたのだろうか。
もしかすると、勇者もルキヤ達の様な時空のねじれに巻き込まれていたりしたのでは無いだろうか。
いずれにせよ、またヴァイラーナムの街には戻って、勇者にその辺の詳細を聞きに行く必要がある事は間違いなかった。
「じゃ、今回もありがとうございました。」
ヨルが、役場の入り口で係長とお姉さんに挨拶をする。」
「うん、またおいで!その頃は収穫祭は終わっていると思うし、部長の出張も終わって2000年史も見られると思うから!」
お姉さんが、2000年史が見られる文言を入れてルキヤ達を送り出す。
「絶対ですよ!!アタシ、絶対2000年史見たいので!!」
セイルが、お姉さんの言葉に過剰に反応しながら、両腕をブンブンと振った。
「じゃ、またな~!」
アキラは、また何かをモグモグ食べながら、役場を後にする。
一方ルキヤは、未だに意気消沈した状態のままだった。
「ルキヤ・・・・」
アキラが声をかけるも、ルキヤは思考の潮流の中でもがき続けていた。
役場から徒歩で約30分、空はすっかり夕暮れ色になっていて、またしても夕やみに包まれながらの移動となっている。
今回は、アルル村ではなくまた時の神殿に戻るので、道はそのまま山道を進んだ。
山道には街道の両脇にある様な街灯(魔法)は無いので、木々の深く茂る場所では、ほとんど前が見えないような状態になっていたが。
「発現せよ!契約者たる我が命じる、光の精霊ウィスプよ!我とこの者達の前に光を灯さん!」
セイルが精霊魔法を使って、自分とルキヤ達の周辺を明るく照らした。
「へぇえ~!精霊魔法を発現させる所、初めて見たよ!」
ヨルが、その光に目を輝かせながらセイルにその感動を伝える。
「えっへん!どうだ!流石のセイル様だろ?あのサイクロプスの一件では剣を振り回す武闘派のエルフか?とか思ってたかもしれないけど、基本的な精霊魔法は大体使えるんだぞ!」
と、武闘派改め魔法も使えるエルフ様?は、偉そうに胸を張った。
「本当、助かるわ~!やはり、目的を同じくするメンバーには一人のエルフが必要って言う話、本当だったんだな。」
ルキヤは、苦悩の渦から解放された様に話し始める。
「ルキヤ!お前~~!!心配したんだぞ!!」
セイルが、ルキヤの頭をワシャワシャと撫でまわす。
ヨルも、その後から続けて髪の毛がボッサボサになるまで撫でまわした。
「ハハっ!ルキヤお前!オイラの時より頭ボサボサになってるぞ!!」
アキラが、腹を抱えて大笑いした。
そうしてルキヤ達は、笑いながら時の神殿に戻って来た。
この間の様な、来てみたらまた神殿が崩れていたりしやしないか?と言う恐怖感もあったが、今回はそれは無いだろう?と言う見解で神殿の前に出た。
「やった~!!神殿健在!!」
アキラが、謎の踊りをしながら喜ぶと、
「やった~~!!アタシも、超嬉しい!!」
セイルもその踊り?に追随する。」
「ほら、2人とも、そんなことをしてないで神殿に入る!」
ヨルが2人の背中を押して、神殿の中に入って行った。
ルキヤは、今まで・・・と言っても体感まだほんの3日か4日の間に、それ以前では到底体験出来なかった世界に自分達が置かれている事に驚きながらも、心の中では何かが始まる予感が躍っていたり、またさっきの様な不安や恐怖もあるこの状態に、不思議と心地よさを感じていた。
もしかすると、今から自分達が行動する事で、今まで起きた過去の出来事すら変えてしまっているのではないか?と、先程のキルキス村の役場の係長が読んだ200年史の中での記述の変化に、これから起こるかも知れない新たな変化を危惧するのだった。
ルキヤ達が神殿に全員入ると、神官が何やら手招きをしている。
「はい!皆さん~お疲れ様です!こちらの部屋へ!お腹空いたでしょう~。温かいシチューを作ったので皆で食べましょう!」
と言って、まだ行ったことが無い神殿の奥の部屋に案内された。
そこには、仮眠出来そうな大きめのソファーが壁沿いに並べられていて、部屋の中心には皆で食事が出来るテーブル席があった。
テーブルの上には、大きめの鍋が置かれていて、その周りにはまだ空の皿と焼き立てのパンの乗った小皿があった。
「ぅわ~~美味しそう!アタシ、かなりお腹減ってたのよね~。」
「って、セイル、さっきキルキス村で収穫祭の料理結構食べてなかったっけ?」
ヨルがすかさずセイルに突っ込むも、
「え?知らないの?さっきのは別腹!女子の秘密その②ガイドブックに載ってるぞ!」
と、ヨルの知らない本のタイトルを言ってきたので、ちょっと引いていた。
「オイラも別腹~!」
ついぞさっきまで何か食べていたと思われるアキラは、さっそくテーブル席の椅子に座って、シチューがよそられるのを待っている。
「そうですよ!君達まだ基本的には子供です!食欲が無尽蔵にある位が普通なんですよ!」
神官は、ルキヤ達のやり取りを見て笑いながら、シチューをそれぞれの更に盛って行き、全員の皿にシチューが行きわたると、
「はい、いただきましょう!」
と声をかけた。
「いただきます!!」
ルキヤ達は、本当にお腹の中に無限虚空の魔物(無限に物質を吸い込む)が孫座しているのでは?と思いたくなる程に、シチューを何杯もお代わりした。パンもたくさんありますよ~と言う神官の言葉に甘えて、神官が予想していたよりもたくさんのパンがルキヤ達のお腹に収まった。
「おやおや~流石です!」
神官は、とても嬉しそうにルキヤ達の食事風景を見守りながら、食事をしていた。
「って言うか神官のオッサン、そんなに少しで大丈夫か?」
アキラがちょっと心配するほどに少なめを食べていた。
「いや~~、マジ美味しかったわ!エルフの森の食事も悪かないんだけどね、ただちょっと・・・味わいが深くない!」
セイルが、エルフの森での食事の内容を語って聞かせると、
「マジか~!オイラエルフの食事興味があったんだけど、無理そうだわ~。」
アキラが残念そうに頭を抱える。
「へぇ~意外!エルフはもっと食事に気を使っているかと思ってたよ。」
ルキヤがセイルの話に感想を言うと、
「いやいや~、別の所でこだわり過ぎてんのよ!草とか薬草とか何か!とにかく、草が多いわ!肉もたまには食べるけど、調理法がやっぱり草多め。そこだけちょっと改善して欲しいと思って幾星霜・・・」
セイルの、エルフの料理論を聞いた面々は、久しぶりに一家団らんの時の様な感覚を覚えた。そろそろ家に帰りたいような感情も湧いていたのだが、この雰囲気のお陰で淋しさが紛らわされている事に、喜びを感じていた。
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