その街に勇者はいない

梢瓏

第一章

第1話 友情の証

 ここは、ユークリイート大陸の中心地域の国ユリサルート王国の山間やまあいにある、アルル村。

 村には約300人の村民が住んでいて、そのうち100人近くが子供と言う、割と若い層の住む村である。


 ある時、アルル村に住む3人の少年が、村外れにある洞窟に向かった。

 村外れと言っても、皆が住む地域からはかなり離れていて、隣村のキルキス村の方が近いのでは?と言う程に遠い。普通に大人の足でも半日はかかる距離だった。

 早朝に村を出て神殿に向かっていた一行は、日が傾き始める前には洞窟に辿り着いた。

 洞窟の入り口には神殿が建てられており、洞窟の中に進むにはまず神殿の中を通らなければならなかったので、アルル村の住人では無い観光客や信仰者の中には、洞窟に入るための別の入り口があるのでは?と、無駄に周囲を散策してしまう事が多かった。

 神殿の建物は、洞窟の中の岩を切り崩して建てられたそうで、洞窟の内部の青い色合いが生かされている感じだ。陽の光に照らされると、青い岩で出来ている神殿のが更に青く輝いていた。

 3人の少年の名は、ルキヤとアキラとヨルで、皆はアルル村で生まれ育った幼なじみだった。

 この日はたまたまルキヤの10歳の誕生日で、ルキヤとその両親と共にアキラとヨルがついいてきた形で神殿にやって来たのだ。

 その神殿は『時の神殿』と呼ばれていて、何と!神殿の中から入れる洞窟の入り口には、かつてこの世界を魔王の脅威から救ったとされる『勇者の剣』が突き刺さっているとの事で、この時の神殿には毎日の様に観光客や勇者の信仰者であふれかえっていた。

「ぅおーー!!スゲェ!!これが勇者の剣か~!!」

 神殿に入って早々、ルキヤ達は勇者の剣の前まで突進して叫んだ。

「こらこら!ルキヤ!他のお客さんに迷惑よ!」

 ルキヤの母がその叫びを制止してはみたものの、全く耳に届いてはいない様子でルキヤ達は神殿と洞窟の中をグルグルと駆け回っている。

「まぁ、仕方が無いさ。時の神殿には滅多に村の人は来ないし、それに勇者の剣も本当に本物とは限らな・・・おっと。」

 ルキヤの父が、体力の続く限りまで駆け回る子供たちを見ながら、やれやれと言った表情をした。それと勇者の剣の話だが、実はアルル村の村民たちの間では、まことしやかにあの剣は「偽物」と語られていて、ルキヤの父もそれを信じている様子だったが、村の子供たちの多くはそれを信じることは無く、今目の前にしているこの剣こそ勇者が魔王を倒した剣として疑う事はなかった。


 しばらくすると、汗だくになって息を切らせたルキヤ達が、神殿のお土産コーナー前のベンチの前に戻って来た。そして、

「あ~!!面白かった~!」

 と3人で顔を見合わせて笑い合っていた。

 その光景を目にしたルキヤの父は、

「そーいやルキヤ、今日この神殿に来た本来の目的はだね、お前の10歳の誕生日を祝う為だったんだけどな?」

 と問いかけたのだがルキヤは、

「いや、オレのためだけ!ってのは良くない!!アキラとヨルとの友情深まり記念ってことにしよーぜ!」

 そう言って、父の提案に首を横に振った。

「なる程!それは良い案だ!アキラ君、ヨル君、いつもルキアと仲良くしてくれてありがとう!ではそのルキアの提案で、皆に友情の証をプレゼントしようではないか!」

 ルキヤの父は意気揚々と、別の提案を掲げた。所が、

「わかってないなーオヤジ!違うんだよ、何て言うか・・・」

 ルキヤは父の提案を却下した後、父の耳元でゴニョゴニョ新しい提案を話す。父はしばらくウンウンと頷くと、ルキヤの右手に何かを握らせた。

 ルキヤは、父からもらった何かを握りしめると、神殿のお土産店に入り何かを買ってきた。

「おぅ!ルキヤ!一体何を買って来たんだよ?」

 店から出てきたルキアにアキラが声をかける。ヨルは自分で売店で買った、時の神殿洞窟から採掘された鉱石見本とその図鑑を読んでいたが、アキラがルキヤに声をかけた所で視線をルキヤに移した。

「へっへっへ~!イイもの!何だと思う?」

 ルキヤは言いながら、店のレジで渡された袋にゴソゴソと手を入れて、中身を取り出そうとした。

 ルキヤがつかんで取り出したのは、3つの腕輪だった。

 神殿奥の洞窟の岩と同じ、青い色をしていた。

「あ~!それ、ボク欲しかったんだ~ちょっと予算が足りなくて買えなかったんだよね。」

 さっきまで鉱石図鑑を読んでいたヨルが、瞳を輝かせながらルキアの手の上にある腕輪を見つめた。

 腕輪は、10歳の子供のおこづかい程度では買えない、ちょっと高価なモノだったのだが、ルキヤの父はかなり奮発して3つの腕輪をルキヤの誕生日のプレゼントと、3人の友情の証として贈る事にしたのだ。

「オレのオヤジ、ちょっと金欠になるけど仕方が無い~とか言ってたけど、まぁそれは置いといて!これはオレ達の友情の証って事で、アキラ!ヨル!受け取ってくれないか?」

 ルキヤは、アキラとヨルの腕に腕輪を通すと、自分の腕にも腕輪を着けた。

 3人の腕に収まった腕輪は、新たな主人を得た武器の様な雰囲気をまとわせた。

「お!何かオイラ強くなってきた気がするぜ!」

 アキラが天井に向かって腕を突き出す。

「本当・・・ボクも何か力がみなぎってくるみたいだ!」

 ヨルも、アキラと同様に天井に向かって腕を伸ばす。

「オレも、何か勇者になったような気分だぜ!」

 ルキヤも2人にならって腕を掲げると、3つの腕輪が共鳴するように光を放ち始めた。

「わわ!何だこれ?!スゲェ~~!!」

「キレイだね~!」

「うひょ~~!!」

 3人が興奮のあまりまた声を上げていると、時の神殿の神官がこの3つの腕輪が光る様子を目にして、何故かとても嬉しそうな顔をした。そして、3人の近くまで歩み寄り、

「その石は、真実に辿り着く道標みちしるべとなろう。」

 神官は、高く掲げるルキヤ達の腕に自身の手を添えながら、そう言った。

「え!?神官のオジさん・・・今なんて?」

 一人、その言葉が完全に頭に入りきらなかったルキヤが質問するも、神官は素早い身のこなしで洞窟の方に去って行った後だった。

「まぁ、大丈夫。ボクが覚えているから。」

 ちょっと意気消沈気味のルキヤの肩をポンポンと叩くヨルの言葉は、今までと違って自信に満ちていた。

「何か、不思議な光景だったよな~この腕輪。マジヤベーんですけど!」

 アキラの興奮は未だ続いている様で、腕輪をさすって喜びを噛みしめていた。

 そんな中ルキヤは、掲げた3人の腕輪が光った事よりも、神官の言った言葉の意味を捉えきれない事に焦りを感じていた。

「おーい!そろそろ帰るぞ!」

 3人の、色々な感情や思いがモヤモヤと渦巻いていたが、そんな空気は全く読まないルキヤの父が、皆に帰路を指し示すのだった。

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