足りない愛を込めて〜ボクと君との出会い〜

猫井はなマル

初恋

ボクの初恋は、入学式に咲いた。


中学校の入学式、桜の花びらが吹き荒れる穏やかな春の日。

ボクの心は、全然穏やかでは無かった。


事前に届いていた名札────それを、登校中に落としてしまったのだ。


渡瀬茉音わたせまいん……ちょっと珍しい名前。けっこう気に入ってる、ボクの名前。


(どうしよう……入学式なのに遅刻しちゃう……)


そんなふうに焦りながら、来た道を引き返して名札を探していたボクに、話しかけた人がいた。


「大丈夫?」


声の主は────綺麗な髪の、美少女。

名札には、北井千乃きたいゆきのと書いてある。


「あ……えっと……大丈夫。名札落としただけだから……」


初対面の人に迷惑をかけたくなくて、なるべく軽く返事した。すると、相手の北井さんは、


「大丈夫じゃないよ!入学式なんだから、みんなに名前覚えてもらわなくちゃ!」


と目をまん丸にしながら言った。


「わたしも手伝うから!名前なんて言うの?」

「え……えっと……渡瀬茉音……」

「茉音ちゃんね。わたしのことは千乃でいいよ」


桜の花のように可憐な人。

弾けるような笑顔が綺麗だった。


「ボクのことも……茉音でいいよ。呼び捨てで」

「そう?じゃあ今日からよろしくね、茉音!」


○○


二人がかりで探したおかげで、名札は思いのほかはやく見つかった。

ほんと、もし千乃が助けてくれなかったら、遅刻確実だった。


「千乃、ありがとう」

「いいよ。全然。ほら、はやく行こ」


まるで天使。そんな笑顔を見て、ボクは────




人生初の、恋を自覚した。


女の子同士だとか、まだ出会ったばかりなのにとか、いろいろ考えたけれど……逆らえずに、恋に落ちた。


○○



これは、淡い記憶。

昔の記憶。


なんだかとても懐かしい夢。

────ボクと茉音が出会ったころの──。

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