第4話  力に目覚めた日 その4


 転入の手続きは思いのほかスムーズに進んだ。


 両親は現在、病院に入院中で意識不明の状態にあるため、こうした手続きはすべて祖父に委ねられていた。


 祖父は事情を聞くと、ただ一言、「そうか……お前が決めたことだ」と言い、すぐに必要な書類の作成を始めてくれた。

 祖父のその落ち着いた姿に、勇馬は新たな道を進む決意をさらに固めるのであった。


 転入を最終決定する日である月曜日の午後、勇馬は再び第二東京呪術学園を訪れていた。


 呼び出したのは瀬尾京志郎だ。学園の保健室で出会った時と同じ、気さくながら頼もしさを漂わせる雰囲気で彼は迎え入れてくれた。


「さて、天之。転入を最終決定する前に、もう一度だけ確認しておきたい。お前がこれから足を踏み入れる世界がどんなものか、ちゃんと理解しているか?」


「はい。瀬尾先生、ありがとうございます」


 瀬尾の真摯な姿勢に、勇馬は感謝の気持ちを込めて応えた。あらかたの説明は既に受けていたが、その丁寧さが嬉しかった。


「まず一つ目だ。この第二東京呪術学園は、全国に10校ある呪術学園の一つだ。ここに通うのは、呪力を持ち、その存在を理解している者たちだけだ」


 話によると、呪術学園は地方ごとに配置され、どの校舎も100人近い生徒を抱えているという。

 中でも、第二東京呪術学園は特に選び抜かれた生徒が集まる場らしい。


「二つ目。お前が入る予定のコースは『特対コース』だ。これは退魔の切り札となる祓守を育成するための特別なコースで、最も危険な任務をこなすエリートコースだ」


 特対コースに所属する生徒は、各学年の中でも特に優秀な者だけだと説明された。

 その代わり、特別な教育が施され、さらに給与まで支給される。

 だが、それにはリスクも伴う。昨年度はこの学園でも1名死者が出たという事実がその過酷さを物語っていた。


「最後に、この学園は5年制だ。2年生としてお前が転入しても、卒業まで最低でもあと3年はここで学ぶことになる」


 学園は高校と専門学校のような仕組みを兼ねており、最後の1年は進路選択や実地訓練のため、学園外で活動することが多いらしい。

 さらに、全寮制のため住環境も整えられており、ビジネスホテルを思わせる個室が用意され、食事や清掃などの日常的なサポートも充実している。


「どうだ、質問はあるか?」


 瀬尾の問いに、勇馬は首を横に振った。心は既に決まっている。瀬尾は満足そうに微笑み、手続きを締めくくる一言を告げた。


「決まりだな。ようこそ、第二東京呪術学園へ」


 その後、校長に簡単な挨拶を済ませてから勇馬は瀬尾に導かれ、前回訪れた特対コースの教室へと向かった。

 教室の入り口には『特対コース』と記されたプレートが掲げられており、その存在感に改めて気付かされる。


 瀬尾が教室の扉を大きく開け放つと、中には既に5人の生徒たちが待っていた。

 それぞれが席に座り、雑談を交わしながらも、新しい仲間を迎える期待に満ちた表情をしている。


「さて、諸君。お待ちかねの新しい仲間だ」


 瀬尾が明るい声で宣言し、勇馬を促す。


「天之です。2年生に転入しました。まだまだ素人ですが、これからみんなの仲間として頑張っていきたいと思います。よろしくお願いします」


 勇馬の挨拶に、教室内から拍手が起こった。


 元気いっぱいの七草茜、落ち着きと品格のある東雲里桜、丁寧で優しげな表情の八神大地、少し刺々しい雰囲気の九堂幸奈、そしてカリスマ的なオーラを持つ九條幸仁。

 ただ、空いている席が自分の分以外に1つあるのは気がかりだったが・・・


 それぞれが個性的で、彼らと過ごすこれからの日々がどのようなものになるのか、勇馬は期待に胸を膨らませた。


「これで晴れて、天之は俺たちの仲間だ。みんな、しっかりサポートしてやれよ」


 瀬尾の言葉に応えるように、教室中が活気に満ちた雰囲気に包まれた。


 こうして、新しい居場所と仲間を手に入れた天之勇馬の新たな生活が幕を開けた。

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