第34話 奇跡とは常に人が起こす物
34 奇跡とは常に人が起こす物
《――地球さんっ?
聞こえますか――地球さんっ?》
《まさ、か》
その声は〝彼女〟の声色と同じだ。
でも確実に〝彼女〟とは違うその声は――あの相良織江さんの物だった。
《――でも、何故っ?》
織江さんは強制的に、ヴェルパスの中で眠らされている筈。
その彼女が、どうやって目を覚まし、私に語りかけている?
私が唖然とすると、織江さんは素早く状況を説明した。
《五英雄が〝彼女〟にダメージを与えた事で、私に対する縛りが弱くなったんです。
今も必死に地球さん達と戦っているから、私には手を出せないみたい。
いえ、もう時間がないから、手短に作戦を伝えます。
私が一瞬だけ地球さんを否定するから、その隙にそのトリプル〝ビッグバン〟を叩き込んで!》
《な、に?》
確かに、その作戦は有効だ。
私は〝ビッグバン〟を有している。
私は織江さんが肯定するから、存在する事が出来る。
その私を否定すると言う事は、私に対して殺意を抱くのと同じだ。
〝ビッグバン〟はその術者が危機的状態に陥った時、その敵を抹殺する為に発動する。
織江さんに向けて発生した〝ビッグバン〟は、ヴェルパスをも巻き込む事になるだろう。
体の内側から〝ビッグバン〟を食らったヴェルパスは、確実に隙をつくる。
《……で、でも、待って!
それでは、織江さんが――》
――〝ビッグバン〟の、餌食になってしまう!
けれど、私が皆まで言う前に、織江さんはただ微笑んだ。
《私、いま地球さんを改めて見直したんです。
だって、そうでしょう?
地球さんが居たから、五英雄も生まれた。
地球さんは、今までこれだけの大いなる命を育んできたんです。
だったら私はやっぱり、地球さんは偉大だと思うしかないじゃないですか。
だから地球さんは、どうか自分を誇って。
他人の事だけでなく、自分を労わる事も覚えて下さい。
でないと、私、本当に怒りますから》
《織江さん――っっっっっっ!》
それが、最後。
私が怒声にも似た声を上げると――相良織江は躊躇する事なくこう叫ぶ。
《――私は地球さんなんて――大嫌いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――っ!》
《ぐっ……つっ!》
それは私にダメージを与えるだけの認識だったが、ヴェルパスのダメージはそれ以上だ。
《――まさ、か……っ?》
体の内側からダメージを受けた〝彼女〟は、いま致命的な隙をつくる。
だったら私達は――その一瞬に全てを懸けるしかない。
私達三人は、今こそ心から吼えた。
《おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――――――っ!》
《まさか、こんな事、が――っ!》
吹き飛ぶ、一人の、少女。
〝ビッグバン〟という力場に呑みこまれた〝彼女〟は、今度こそ致命的なダメージを負う。
その姿を見届けた私は――今こそ涙した。
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