【密着】サンタクロースの1年間!
崔 梨遙(再)
1話完結:1700字
『どうも、こんばんは』
「あ、テレビ局の方々ですね。こんばんは」
『密着取材、長期に渡りますがよろしくお願いします』
「よろしくお願いします」
『お住まいは、こちらですか?』
「ええ、8畳の1Kです」
『今日は大晦日ですが』
「ええ、カップ麺の年越し蕎麦です」
『毎年、こんな感じですか?』
「はい、何年もこんな感じです」
『お一人ですか?』
「はい、もう何年も一人です」
『じゃあ、年越し蕎麦、食べちゃってください』
「はい、では、いただきます」
『あ、除夜の鐘ですね』
「今年は良い年でありますように」
『明日も来ていいですか?』
「はい、正月の3日まではお休みですけど」
『こんにちは、元旦です』
「はい、元旦ですね」
『何をしていましたか?』
「インスタントの味噌汁に焼いた餅を入れて雑煮として食べました」
『今日のご予定は?』
「初詣に行きます」
『神社ですか?』
「僕はお寺です」
「はい! お参りが終わりました」
『これからは?』
「ちょっと外食します。たまには外食もいいでしょう」
『どちらへ?』
「ここです」
『大衆食堂なんですね』
「そこがいいんですよ。お財布に優しい」
『何を注文するんですか?』
「僕はいつも月見うどんだね」
「これからついてきても何も無いですよ。餅を食べながらゴロゴロするだけですので
4日から仕事が始まりますけど」
『ところで、髭は無いんですね?』
「ああ、あれは当日だけの付け髭ですよ。僕、まだアラフィフだし」
『じゃあ、4日にまた来ます』
『こんにちは』
「こんにちは」
『今は何を?』
「世界中からサンタ宛に届いた子供達の手紙を読んでいました」
『読んで、どうするんですか?』
「いやぁ、全ての子供達にプレゼントを配るのは無理だから、手紙を読んでプレゼントを渡す相手を選んでいるのです」
『それは重要なお仕事ですね』
「そうなんです」
『こちらの手紙の山はなんでしょう?』
「ああ、英語なんです。僕、英語は苦手なので外国のサンタに送ります」
『お給料はどうなってるんですか?』
「サンタ協会からの固定給が毎月20万円、子供のプレゼント用の資金が毎月5万円ですね。後は、バイトをするかどうか?」
『バイトしてるんですか?』
「ええ、内職をやっています。今は、カプセルにおもちゃを詰める内職です」
『内職しているところも撮っていいですか?』
「構いませんよ」
『失礼ですが、生活は楽ですか?』
「苦しいですよ。月に20万円は。エアコン壊れていますけど、新しいエアコンを買うお金も無いですよ」
『こんにちは、夏ですよ、サンタさん』
「……こんにちは」
『サンタさん、寝込んでるじゃないですか?』
「熱中症になりました」
『あ、新しいエアコンですね! これ、子供達のプレゼント代で買ったんですか?』
「そこは、カットしておいてください」
『サンタさん、秋ですよ』
「ちょうどいいところに来ましたね! これから娘に会いに行くんです」
『サンタさん、お子様がいらっしゃったんですか?』
「はい。離婚した元嫁が引き取っています。年に2回だけ会えるんですよ」
「あ、私と娘の顔は写さないでください」
『え! ダメなんですか?』
「はい、もう私達は“サンタのお仕事”とは無関係ですので。それに、私は再婚しているんです」
「久しぶりだなぁ、三葉。僕のこと、おぼえてるか?」
「オジサン、誰?」
『サンタさん、12月の23日です』
「ちょうどプレゼントを買いそろえたところです」
『いよいよ、明日ですね。明日と明後日は密着させてください』
『いよいよ出発ですね』
「はい、出発です」
『あれ、トナカイのソリは使わないんですか?』
「あんなもので空を飛んだら大騒ぎですよ」
『電車に乗るんですか?』
「はい、公共交通機関を使います。終電までが勝負です」
『この団地ですか? ベランダから入るんですか?』
「そんなことしたら、不法侵入になりますよ」
『ということは?』
「玄関でピンポンを鳴らします」
『出て来ませんね』
「最近、仕事で親の帰りが遅くなるケースも多いですからね」
『こういう時はどうするんですか?』
「置き配です』
「置き配なんですか?」
『しょうがないでしょう』
サンタは月給が22万5千円に上がったが、この“サンタ密着”の動画はお蔵入りになったらしい。
【密着】サンタクロースの1年間! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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