2025/09/16

荒地を行く者のために

そのガソリンスタンドでは籤を引かせる慣習がある

科学文明が発達したがために回り道を許されない彼らは

危険を冒してでもその先ヘと進もうとする

屈強な男が過ぎ去った

うら若き女が過ぎ去った

後のない老人が過ぎ去った

誰もが帰ってはこなかった

ある日年端もいかぬ少年がやって来た

誰もが等しくそうしたように少年もまた籤を引いた


時のない世界に咲く花には

褪せていく色も

腐っていく臭いも

さらには雌雄すらもなく

ただそこに形があるばかり


吉とも凶ともつかぬ結果を受けた少年の面は暗い

誰もが一度は遂げねばならない旅路へと少年は行く

そこが本当に入口なのか

それともどこかへと通じる出口なのか

誰も知らぬままに時は流れる

慰みに飼われた黒いシェパードだけが

その瞳の奥に真実を感じ取っている

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私の心もよう 雨宮吾子 @Ako-Amamiya

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