愛恋短編作品集

歪 瑞叶

月を堕とす人(陽・上)

本当に好きだった。

 世界に溶けてしまいそうな境界線が曖昧な線の細い体躯に、首筋のあたりの肌の粒子の細かさや、夜空を掬い取ったような艶やかな髪や伸びやかに良く動く指先が好きだった。

そして、その夜空の向こうにある色素の薄い虹彩に囲まれた淡く美しい瞳を愛していた。それは時として他人を射すくめるように鋭く、それでいて何時だって吸い込まれてしまいそうになる程、深い憂いを湛えて、しっとりと濡れていた。その瞳が閉じ、じっと何かを思索に耽っているような時、その陶器のような白い頬や、その瞼に、そおっと唇を当てたくなる。

そうして、所有権を表したくなる。子供の頃に身の回りの品の数々に名前をかき込んだように。

夜空に浮かぶその月を、自分のものにしてしまいたくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る