カルシウム

紫音

第1話 高身長

私はバスケ部だったが、背が伸びないことが悩みだった。中学の時に一番後ろの列に並んでいたのが、高校になるとめっきり伸びなくなった。


もっと背が高くなりたい。


いかんともしがたいこの思春期の悩み。

私は骨伸長の手術でもしたいなぁなどと思いながら、毎日牛乳と煮干しを喰っていた。


それでも私の身長は伸びず、あ~やんたぁなぁはぁもぉはぁ、と溜め息まじりに田舎の言葉を口に出す日々。


そんなある日。

1人のおっさんが何やら露店で怪しげなモノを売っていた。

そのおっさんが言うには、骨が伸びる!身長が伸びる!あなたもこれでモテモテよ!なんつって叩き売りをしていた。何をそんな怪しいモノを誰が買うかいアホンダラァと思っていると、1人の男がそれなんぼ?って聞いている。


5万!しっかしあんたぁお目が高いってんで1万で良いと言う。喜び勇んでその男は露店商のおっさんから何やら怪しげなモノを買ったのだった。

やったぜこれでおいらは高身長!努力せずに3高のうちの1高を手に入れたぜこれでモテモテよオホホホホ!なんつって走って行ってしまった。


その男が買った後、我先にとドヤドヤ露店商に群がる人、人、人。あっという間に露店商は四方八方人で埋め尽くされた。出遅れてしまったこりゃいかんと思った私は、人の山をかき分けながら圧に押されながら前へ前へと進んでいた。途中、人の山にもまれて圧死してしまった者もいた。しかし止まらぬ人の山。圧死してしまった人もまた人の山に飲み込まれていった。それでもめげずに圧死しそうな圧をかき分け避けながら遂に私は露店商のおっさんの目の前まで来ることができた。よっしゃよっしゃと思いながらなけなしの1万を出し、よっしゃよっしゃと今度は人の山を上から越えていくことにした。

ようやく人の山を超えて来たと思えばもはや隣街に出ていた。家に帰るにはまた人の山を越えていかねばならず、それはごめん被りたいと思った。しかし早く試したいと思った私は、帰る迄に待ちきれずそのCaと書かれた袋の封を切り、その場で粉末状のCaと書かれたモノを飲んだ。


するとどうだ!私の目線は、目の前にあった軽自動車の屋根を上から見下ろせるほどになった。そこからまたどんどん伸びて電信柱が近づいていく。どんどんどんどん伸びて空に近づいていく。空気が薄くなって来るのを感じた。それでもどんどんどんどん伸びていく。そのうち地球を見下ろし、辺りは真っ暗な宇宙になった。


下を見下ろすと、何やらとんでもない勢いでこちらに向かってくるものが見えた。

人の山だった。

人が山になってどんどんどんどんこちらに向かってくる。

遂に同じ目線で話せると思ったら、その人の山は更に伸びていった。伸びて伸びてガスッと何かに突き刺さる音がした。それは月だった。次の瞬間、ズボッと何か突き抜ける音がした。それも月だった。人の山は折り重なりながらそれぞれ伸びていく。横に広がったり、折り重なる人の向きによって伸びる方向が違うものだから、下から見るときのこのようになっていた。隣でメソメソ泣いている女がいた。

どうしたの?

と聞こうと思い、女の子の方に近づこうとすると足に何かが突き刺さった。

痛っ

私は足の裏を見てみた。すると、私の足裏には、自由の女神が突き刺さっていた。

軽く移動しただけで太平洋を横断してしまったようだ。中には、背が高くなりすぎて土星の輪に頭をぶつけて死ぬものまでいるようだった。それは、土星の輪が頭に突き刺さって私の目の前を降りていくのが見えたので分かった事だった。

気づけば私の周りは私より背が高い者でいっぱいとなった。

私は思った。


もっと背が高くなりたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カルシウム 紫音 @purplemu49

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ