二人社畜オーバー
猫と読む部屋
1食 二人社畜、2名です
「馬鹿と言えば馬鹿かもな」
一人の男が言う。続いて、その男と向かい合わせにテーブルに向かっている男が言う。
「そうかもな」
その男は、答えるとまた一心不乱に、黒い手帳型のカバーがついたスマホを、右手の人差し指で上下に動かしながら触る。それを不思議に思って、新聞を厳つい目で読んでいる、スーツを着た若い男は問う。
「何が、なーにが面白いのさ。ただの画面、テレビと変わらぬブラウン管だ」
それに驚いた同じスーツを着た中年の男は、指を止めて、開けた口でそのまま説明する。
「何って、そりゃあもう、全部さ」
まだその男は目を丸くしていた。これの何がそんなにくだらないんだ、と言わんばかりの。新聞を読んでいる男は、それは何故、と目だけ合わせて聞く。
「だって、ほらみてよ!僕らの時代にはこんなの、ありえないものだったんだ、ましてや、今君が読んでいる新聞が、衰退するなんて」
男はがっかりした。聞いて損した。ため息をつき、また新聞を読む。ページが進む。慣れた手つきで、親指だけで紙を下から押し進めた。彼は、つまらなくなるといつもこうだ。
「えぇ、またそんなそっけないことして…というか、君の世代のものでしょ、本来」
まだ続ける。そう、本来なら。少し地雷を踏んでしまった。彼の。
「あ、いけない。また注文をするのを忘れたよ。どれにしようか」
焦った男は、急いでスマホの電源を切り、パタン!と音を立てて、すぐ黒色のリュックの脇ポケットに入れる。そこは、元々は水筒が入るはずだった。
「そうだね、僕も忘れていたよ。今日は洋食の気分だった」
料理を頼む前に、お冷を飲みきった彼らは、すみません。と手を挙げて店員さんを呼び、またいれてもらった。続けて、パラパラとメニュー表をめくりながら注文をする。かしこまりました、と言い彼女は厨房へ駆け寄った。頼んだ料理名が、彼女によって厨房へ復唱されるのを聞くと、また彼らはそれぞれのしたいことをする。
「ああ、もう退屈だ」
スマホをいじっていた彼は、疲れた顔で背もたれによりかかる。
「ほらな、だから面白くないんだ」
新聞が読み終わると、左側にあるリュックに、そう言いながらしまう。すると、丁度いいところに料理が運ばれてきた。それは今だけ!と反論しようとしたが、両者は黙々と食べ始めた。
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