第11話 新たな魔物は頼もしい
『【憤怒】』
あずきがスキルを発動すると、全身からドス黒い血のような色のオーラが噴出する。黒い鎧にもところどころ血が流れたように赤いオーラが纏わりついている。
『な、なんだ!?』
メリル団長が驚いている。無理もないな。俺も驚いたもん。コンソールであずきのステータスをもう一度開いてみる。
魔人 Sランク LV56
〈スキル〉
・炎魔法
・水魔法
・地魔法
・風魔法
・闇魔法
・魔力急速回復
・憤怒
・物理完全無効
・超再生
これだ、【憤怒】ってスキルだ。タップして詳細を確認する。
【憤怒】
……体力が半分を切ると発動可能。使用者のステータスを4倍にする。
いやいやいやいや。これおかしい。チートだろ。4倍て。界○拳じゃあるまいし。どこぞの野菜の王子様もびっくりだよ。
「なあ、ハジメ。さっきから何してるのだ?」
カーラがポテチの空袋を持ってやってきた。また新しいのを貰いにきたのか? 面倒な。
「あ? カーラか、今いいところなんだよ。邪魔しないでくれるか」
「私がいつ邪魔をした。相変わらず失礼なやつだ」
ぷりぷりと怒るカーラを無視していると、すぐ横に顔を近づけてきた。カーラの桃色の髪が俺の顔に当たってくすぐったい。
「なんだこれは!? 面白そうなことになっているじゃないか! なぜ私を呼ばん!?」
「うるさっ。耳元で叫ぶんじゃないよ。だって、お前がいると集中できないもん」
「ふざけおって……。なんだこの魔物は。なんだこのニンゲンは。このダンジョン始まって以来の面白そうな戦いを、私に教えなかったのか」
カーラが怒りで震え出す。あ、これやばいやつだ。
「ま、まてよ。これ全部録画してるから。後で何があったかいくらでも見返せるから大丈夫だって」
「それで?」
あ、はい。お菓子も用意しますとも。すぐにポップコーンとコーラを用意して、カーラに差し出す。それを受け取るとご満悦な顔で隣に座った。よかった、許してくれたっぽい。
「ふおお。ついにSランクの魔物が生まれたのだな。しかも魔人ではないか」
「“あずき”な。俺が名付けた」
「あずき! 行け! そいつをぶっ倒すのだ!」
モニターに映るあずきを見てテンションが上がっている。戦いはもう一方的だ。4倍に跳ね上がった膂力で振るう大剣と錫杖のコンボに、メリル団長は逃げ回ることしかできない。防御のために出した氷の魔法も一瞬で砕かれ、逆に氷の礫がメリル団長に襲いかかっている。
『邪神様も観ておられるのですね!? あずき、もっと頑張りますわ!』
『でたらめな腕力だな。しかし、力任せな攻撃など避けるのも容易いぞ』
『お褒めの言葉、嬉しいですわ』
メリル団長の挑発を皮肉で返す。あずきの攻撃はさらに苛烈になっていくが、メリル団長もまだ勝負をあきらめていないようだ。攻撃をどうにか捌きながら、魔法を練っている様子が見える。
「あずき。何か仕掛けてくる、気をつけろ!」
『っ!? はい、マスター』
『私の奥の手を見せてやる。【
魔法が発動する。メリル団長を中心に上空の大気が瞬時に凍りついていく。空に浮かぶ巨大な白い物体。まるで雲みたいだ。でも、よく見るとその一粒一粒が鋭く尖った氷の欠片。それは桜の花びらによく似ている。桜雲。なるほどその言葉がピッタリだ。
『逃げ場はないぞ。喰らえ!』
白い桜の雲がブワッと舞い散りあずきに向かって降り注ぐ。幻想的な見た目だが、そこに込められた威力は半端じゃない。花びら一枚一枚がナイフのような鋭さだ。
「あずき! 逃げろ!」
俺は思わず叫んだ。あんなものまともに受けたら全身がズタズタの粉々だ。いくらあずきでも、全身を消滅させられたらもう再生はできないだろう。でも、あずきはどこ吹く風で立っている。
『ご安心を、マスター』
吹き上がるオーラが勢いを増す。あずきも魔力を練っているようで、バチバチとオーラが音をたてている。
『私も必殺技を見せてあげましょう。雷魔法と闇魔法の複合。魔人の使う究極の魔法を』
あずきの纏うオーラが雷に変わる。血のような赤黒い雷がバリバリと周囲に迸る。なんか魔界の雷って感じがしてカッコいい。俺の厨二の心が疼くエフェクトだ。
「なんだあの雷は。カッコいいではないか! なあハジメ」
「お前もそう思うか!? 赤い雷とかマジでヤバいよなあ!」
カーラと意見が合う。ちょっと興奮してきた。戦いはクライマックスだ。必殺技と必殺技をぶつけ合って、立っていた方が勝者。実にわかりやすい。
『【神翼・堕天】』
あずきの背中から、2対4枚の翼が出現する。赤い雷で作られたそれは、さながら天使の羽のように見える。
「ちょ、なんだその厨二心を真正面から撃ち抜くような必殺技はあああぁ!」
「わああ! 綺麗だなあ!」
マスタールームで大はしゃぎする俺たち。
雷の翼は眩い光を発しながらボス部屋中を嘗め尽くす。メリル団長の放った魔法も焼き尽くしながら。圧倒的だ。
『あああああ!』
強烈な放電を浴び、メリル団長は絶叫する。あれ、超痛そう。地面に膝をつき、ガクガクと震える。電撃を浴びて動けなくなっているみたいだ。
「あずき、捕えろ」
『かしこまりました』
俺が指示を出すと、あずきはすぐに動いてくれた。地魔法で鎖を作るとメリル団長を拘束する。
「よくやった。あー。そのままマスタールームまで連れてこれるか?」
『マスター。良いのですか?』
あずきが少し驚いたように言う。ああ。抵抗されるのを心配してるのかな。別に大丈夫だろ。武器を取り上げたし、あずきが一緒にいるなら何か変なことをしたとしても対処してくれるはずだ。それよりも、直接会って話したいことがあるし。
「構わないよ。でもあずき、何かあったら俺のことはしっかり守ってくれな?」
『もちろんでございます! この命に代えても!』
「お、おう。命は大事にしろよ」
あずきはやたらと嬉しそうだ。そんなに慕ってくれる覚えがまるでないんだが。一応俺が創造主だからなのか? もはやあずきが大型犬に見えてきた。尻尾をぶんぶん振っていそうだ。
「てことでカーラ。いいよな?」
「ああ。いいぞ。何かあったら私も守ってやる」
「ああ、頼りにしてる……て、ん?」
そういえばこいつ、一応邪神なんだよな。戦闘能力は正確には把握してないけど、実際どのくらい戦えるんだろうな。少なくとも俺より強いのは間違いない。まあ俺の戦闘能力なんて皆無なんだが。
「どうした?」
カーラが小首を傾げて見てくる。まだ子どもだけど、ほんとに美少女だなこいつ。将来が楽しみ、なんて親目線で思ってしまうのは、毎日こいつの世話ばかりしているからだろうか。
「いや、なんでもないよ」
こっちの世界に来てから、前の世界より忙しくなった気がする。俺、働くの嫌いなんだけどなあ。でも、ダンジョン運営はゲームみたいだし、あまり嫌いじゃないかも。前よりもいい暮らしができているのも事実だし。そのうちダンジョン運営もあずきあたりに任せたりなんかして、俺は遊んで暮らす日が来るかもしれないな。
「そのためにも、もうちょっと頑張らないとねえ」
あずきに引きずられてくるメリル団長をモニター越しに見ながら、俺は呟いた。
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