第23話『合同練習』
時は過ぎ、結愛は桐谷からの厳しい指導を受け、着実に実力を高めてきた。
2ヶ月の猛特訓を終え、いよいよオーケストラとの合同練習が始まる日がやってきた。
朝、結愛は少し緊張した面持ちで、自分の家にあるピアノの鍵盤に手を置いていた。オーケストラとの合わせは初めてで、彼女の心は不安と興奮で揺れ動いている。それでも、心の中で自分に言い聞かせた。
「大丈夫、私はできる!」
♪♪♪♪♪
自分の意志を強く持ち、結愛は練習場所である大きな会場に向かう。
会場に到着。
演奏ホールには、大きなオーケストラの団体が待っていた。
指揮者が立ち、オーケストラのメンバーが整列している。その場に立ち尽くし、しばらくオーケストラの演奏者たちの姿を眺める結愛。
「結愛!」
結愛は振り返る。
観客席には、奏斗が微笑みながら、結愛に手を振っていた。
その笑顔に、少しだけ緊張がほぐれる。
「奏斗」
結愛も手を振る返す。
♪♪♪♪♪
指揮者が立ち上がり、オーケストラ全員が静まり返る。
結愛はピアノの前に座り、楽譜に目を通した。オーケストラと合わせるためには、個々の楽器とのタイミングが全てだ。そのためには、彼女の演奏がピアノだけに閉じたものではなく、オーケストラの全体を意識しなければならない。
指揮者が手を振り、練習が始まる。
最初の音が鳴り響いた瞬間、結愛の胸は高鳴った。オーケストラの重厚な音がホールに広がり、ピアノの音を合わせる場所を見失いそうになるが、結愛は集中した。
「心を込めて」
彼女は手を鍵盤に滑らせ、演奏を始める。最初は緊張して指が震えていたが、次第にそれが音楽に変わっていった。
彼女の指が一音一音を大切に、確実に鍵盤を打つたびに、オーケストラのメンバーもその音に応じて演奏を重ね、響き合っていった。
ふと、結愛がピアノに心を込めて演奏し続けると、何かが変わったように感じた。空気が一変し、光のようなものが彼女を包み込んでいく。どこからともなく、羽音が聞こえてくるような気がした。
その瞬間、ホールの空間に天使達が現れる。白い羽を持ち、純粋な光を放つその存在は、まるで結愛の音楽に呼応するかのように舞い降りてきた。
その天使達は、軽やかに空中を舞いながら、彼女の奏でる音楽に合わせて踊り始める。その美しい姿に、結愛は息を呑んだ。演奏の手を休めることなく、彼女はただその光景を目の当たりにしていた。天使達が舞うたびに、音楽が一層美しく、力強く響いていく。
ふと周囲を見回すと、オーケストラの演奏者たちも驚いた表情で天使達を見つめているのが分かった。
天使達は、まるで音楽そのものの精霊のように舞い続け、結愛の心の中で、彼女の音楽の可能性を感じさせてくれた。
そして、演奏が終わると、天使達は静かに姿を消し、再び静かな空間に戻った。結愛は少し息を整え、顔を上げる。
「ブラボー!」奏斗は大きな声で拍手。
結愛はその手のひらにじっと目をやりながら言った。手応えを感じていた。演奏が、何か大きな力を呼び寄せたのだと。
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