綺麗事は大事だ。しかし、現実に向き合うのはもっと大事だ。
この物語は、登場人物全員から薄らと嫌な感じがする。
話の中心は、一人の知的障害の男の子なのだが、それを取り巻く人たちが、少しずつ弱い。
そして、その弱さが少しずつズレを大きくして、悲しい結末を迎える。
これが本当にフィクションと笑えるだろうか。いや、笑えない。
確かな温度感を持って、この話は書かれている。
現実問題、僕たちの近くに知的障害を持った人がいることは珍しくない。そして、大抵の家族は、子どもがどうであれ一人の人間として責任を持って付き合っていくし、役所に頼ればある程度補助してくれる制度が整えられていたりするから、今の時代は多少マシになってきているだろう。
しかし知的障害の家族を養うというのは、断言するが易しいものではない。周りの人々の忍耐と多くの犠牲で成り立っている。そして、その生活を我慢出来ない時もある、何故ならば僕たちも弱い人間だからだ。それは、僕自身家族に障害を抱えた人がいるから実感することでもある。
確かに理屈だったり、気持ちの上で、知的障害者の方を邪険に扱うのは差別だとする意見もあるし、実際その通りだとも思う。
ただ、その家族も人間で、感情もある。こればっかりはどうすることも出来ず、騙し騙しやってくしかないのが現状だ。
誰かを悪人にしてその人を叩ければ楽なのだろう。しかし、僕にはこの人たちを叩けない。
何故ならば、みんなそれぞれの痛みを持っている。
そういった痛みを突きつけてくれる、最高に性格が悪く、素晴らしい作品です。
是非、ご一読ください。おすすめです。