第10話 力9999
ネットで調べに調べ尽くしたが自分が強い理由は見当たらない。
モヤモヤした気分で翌朝を迎え俺はエリスと朝食を取っていた。
今日朝食を作ったのはエリス。
シンプルなオムレツを用意してくれたのだが……これがまた素晴らしい。
黄金色に輝く卵。見るだけで何故か唾液が溢れ出す。
もしかしてエリスは料理が得意なのか?
外から聞こえてくる鳥の鳴き声を聞きながら、俺は目の前に出されたオムレツに箸を入れる。
「料理得意なんだな」
「みたいだな。作り方は知っていたし、簡単にできた」
「味の方は……美味い! こんなに美味いオムレツは初めてだ」
味付けは完璧。
丁度いい塩加減にほんのりバターの香り。
これほどのオムレツを始めて食べた。
それは誇張ではなく本当だ。
エリスという美人が作ってくれたというのもあるだろうが、ここまで朝食を喜べれたのも初めてである。
「そんなに美味いか」
「美味いよ。これなら毎日でも食べたいぐらいだ」
「そうか」
俺が興奮してそう答えると、エリスは淡々とそう返事をするだけ。
美味しいものを食べてホクホク顔で彼女の方に視線を向ける。
エリスは感情の読みにくい表情でオムレツを食べているが、耳が赤くなっていた。
もしかして照れてるとか?
しかしそれを確認する術はない。エリスは基本的に抑揚が少ないみたいだから、何を聞いてもこんな調子だろう。
でもなんだか可愛い。俺はエリスを見てそう感じていた。
「そういえばチャンネルの登録者はどれぐらいになったんだ?」
「そうだな……昨日の調子から言えば、30人ぐらい登録してくれてたら御の字じゃないかな」
「30人か。いっていたらいいな」
「だな」
チャンネル登録をしてくれた人がいるのは知っているが、それでも精々30人がいいところだろう。
エリスの美貌があったとしても、いきなり100人越えは難しい。
一応の目標は100人に設定しているが、上手くいけば一ヶ月で達成できると踏んでいる。
ま、全部エリス頼みではあるのだけれど。
オムレツを食べ終えた俺は箸を置き、携帯で自身のチャンネル登録者数を確認してみる。
「……は?」
「どうした英二」
絶句。
言葉の通り俺は言葉を失っていた。
チャンネル登録者数――2万人!?
ちょっと待て……夢でも見ているのか。
昨日の朝はゼロだったんだぞ。
それがいきなり2万人ってどうなってるんだ!?
困惑の極みの俺を見てエリスが携帯を覗き込んできた。
彼女の顔が真横にあり、シャンプーの甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
同じシャンプーを使ってるはずなのになんでこんないい匂いがするのだろう。
「2万人……30人どころの話じゃないな」
「あ、ああ……もしかして夢でも見ているんじゃないかな」
エリスがいることも俺が強かったことも、登録者数が2万人を超えていることも全部夢のような。
そんな錯覚さえも覚え始める。
「このぬくもり、夢だと思うか」
「あ……」
エリスの両手が俺の頬を包み込む。
その温かさ。そして俺を見つめる碧眼の瞳。
自分の胸が激しい鼓動を打つ。
これは夢じゃない。夢のような現実だ。
「ゆ、夢じゃないよな……そうだよな」
「ああ。英二はもう有名人。あの強さも人気も本物だ」
「本物だとしてもまだ実感が沸かないというか……とりあえずは自分の強さの理由が知りたい。今日は『ギルド』に行ってもいいか?」
エリスが俺から離れて真顔で首肯する。
「ああ。英二の望む通りするがいいさ」
「あそこに行っても何も分からないかもだけど、一応調べてもらうよ」
◇◇◇◇◇◇◇
朝食を終えてすぐに俺たちは『ギルド』へと足を運んでいた。
すでに俺はそこそこ有名人らしく、俺が施設内へと入ると周囲がザワつき始める。
「おい、あれって」
「うお! あの【忍者】だよな……昨日話題になってた」
「有名人なの?」
「知らねえのかよ。【来訪者】を倒した【忍者】様だぜ」
「に、【忍者】が【来訪者】を!? 嘘だろ……」
少し気恥ずかしさを覚えつつ、列に並ぶ俺たち。
周りの視線が気になるが……俺よりもエリスの方が見られているような気がする。
「美人だ……凄まじい美人だ」
「あれほど綺麗な人は見たことない」
「可愛いにも程がある……お付き合いしたいものだ」
周りからそんなことを言われているエリスであったが気にする素振りは見せない。
だが俺は気付いていた。彼女の耳がピクピク動いているのを。
この子、顔には出ないけど耳の反応を見ていたら分かりやすいのかも。
そんな噂話をされている俺たちは、そのまま黙って列の順番が来るのを待った。
「お待たせしました。それではこちらに触れてください」
ステータスを確認するための列。
自分の番となった俺は宝玉に触れる。
対応してくれるのはいつものポニーテール美人。
宝玉が光り、ステータスをプリントアウトしてくれる。
そして彼女はそれを渡そうとしてくれるが――俺のステータスを見た瞬間に固まってしまう。
「あ、あの……こちらに来てください!」
「はい?」
俺とエリスはその受付嬢に、奥にある部屋に通される。
その部屋は中央に業務用みたいなテーブルが一つあるだけで、他にはない狭い場所であった。
落ち着かない様子の彼女は、怪訝そうな顔をこちらに向けながらステータスを俺に手渡してくる。
「これ、どういうことですか?」
「どういうことって……はぁ!?」
自分のステータスを見て俺は仰天してしまう。
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忍者 レベル3
HP 27 MP 9
力 9999 防御 12
魔力 15 素早さ 18
運 9
スキル
忍足 火遁
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力が9999!?
どうなってる……俺の身に何が起きてるというんだ!?
「英二、なんだこの力は」
「俺にも分からない……もう何がなんだか」
ステータスを見たエリスも流石に唖然とし、俺と同じくそのまま固まってしまうのであった。
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