学年一の美少女、好感度爆上げ大作戦!!これで、僕は薔薇色の高校生活を手に入れました!!

米太郎

第1話

明戸めいど早紀さきさんって、可愛いよなー」

「はぁ? 学年一の美少女に向かって、そんな言葉じゃ足りないだろ?」


 昼下がり、のどかな喫茶店でお茶をたしなむ。我ながら暇している高校生だなと痛感している。

 僕に突っ込んでくるのは唯一無二の親友、茨野ばらの俊介しゅんすけだ。彼自体は暇を持て余しているわけではないと思うのだけれども、僕に付き合ってくれる。最高の親友だな。


「もしも、あんな可愛い子が彼女になってくれるんだったら、何でもするよなー」

「気持ちは十分わかる。けどな、桑原くわばら。お前には無理だな!」


「はぁ? 何事もやってみないとわからないだ……」


 俊介へ言い返そうとすると、店員さんが注文した品を持って来た。



「お待たせしました。追加注文のチーズケーキです。どうぞ、ごゆっくりお過ごしくださいませ」


 店員さんはニコリと微笑んでくれる。丁寧にケーキを机に置くと、お辞儀をしてからカウンターの方へと戻っていった。

 優しいお姉さんの良い接客が入ったことで、俊介へ言い返そうという気持ちがそがれてしまった。



「なんだか、あの店員さんって、お前に優しくないか?」

「まぁ、ここの常連だからかな? お前も通ってみるか?」


「いや、お前みたいに金があれば通うんだけどな……」

「それなら、バイト紹介するぜ?」



 俺は嫌な予感しかしなかった。

 俊介が教えてくれるバイトと言ったら力仕事ばかりだ。一度、俊介と一緒にバイトしてみたことがあったのだが、細い身体のどこにそんな力あるんだと驚くくらいスイスイと荷物整理の仕事をしていた。僕はと言うと、ひぃひぃ言いながら何の役にも立っていなかったのだ。


「あぁ。また機会があればな……。できれば、楽して稼げるバイトがいいなー。レンタル彼女みたいなさ、レンタル彼氏とかってバイト無いの?」

「あぁ、なるほどな。今度のバイトは良い条件でさ、お前に頼みた……」



 ――ガタンッ!



 なにか激しい音がしたと思って振り向いてみると、さっきの優しそうな店員さんが荒々しくコーヒーカップを置いていた。

 そして、見下すようにお客さんの方を向いていた。


「お客様、少々お静かにしてくださいませっ! 他のお客様に迷惑になりますのでっ!」



 声は抑え気味だったが、怒っている気配がひしひしと伝わってきた。


「あの店員さんって、あっちには厳しいな……」

「そりゃあ、マナー悪い客にはイラつくだろ?」


「そうか。良い客と悪い客とで、こんなに変わるもんなんだな」

「良いお客には嬉しくなるもんだよな」


「まぁ確かにな。さっきの店員さん、俊介とだったらすぐにデートに出かけても良さそうな雰囲気まで出してたのにな。恋する乙女って感じだったじゃん……」



 と、その時、僕の中に電撃が駆け巡った。




「なぁっ!! 俊介っ!! 良いこと思いついたぞっ!」

「あぁ?」


「丁寧な『良いお客さん』として店に通ってくれたら、好感度爆上がりするんじゃねっ?!」

「まぁ、そうかもな?」


「来週って文化祭があるじゃん!? 明戸さんがやるメイド喫茶に良いお客さんとして通ったら、好感度爆上がりじゃねっ!」



 我ながら素晴らしい作戦だと満足して、一気にお茶を飲み干した。

 これは、文化祭が楽しみだぞ。



 ◇



「……って、なんで文化祭当日に明戸めいどさん休んでるんだよーーーっ!」



 文化祭の当日、メイド喫茶へとやってきたのだが、肝心の明戸さんがいなかったのだ。文化祭なんて一年に一回の大イベント。せっかくの作戦が丸潰れだ……。


 そんな状況でも、メイド喫茶にはお客さんがいっぱい来ているようだった。

 こんなに美少女が揃うメイド喫茶なんて、学区内はおろか県内でも他には無いかもしれない。


 明戸さんはいなくても、せっかく来たのだからとコーヒーでも飲もうと思い店内に入ろうとすると、明戸さんのクラスメートが忙しそうに働いていた。

 そもそも昼過ぎに来たんじゃ、席すら空いてないような状況だ。



「どうしようかな……。明戸さんがいないんだったら帰るか……」


 そう思ったが、明戸さんのクラスメートがせわしなく働いており、とても辛そうな表情に見えてきた。こんなに混んでいるんだもんな、一人休みだとその分のしわ寄せも行ってしまうだろうし……。


 その時、以前と同じように僕の中に電撃が駆け巡った。



「あれ……? これってもしかすると。この忙しい状況を手伝うことで、僕の好感度爆上がりじゃね?」


 そんな考えが頭をよぎった。

 そうであれば、善は急げと思い切って忙しそうな店員さんを捕まえて、申し出てみた。



「すいません。もしよければ、僕が明戸さんの代わりに働きますよ!」


 店員さんは、見知った程度の僕を怪しがるように見てきたが、すぐに表情が柔らかくなった。



「ほーん。あんたの魂胆見え見えだけど、人手足りないから助かるわ。それじゃあ、てすぐに明戸さんのメイド服着て手伝って!」

「はいっ!……って、メイド服着るんすか?」


「当たり前っしょ。メイド喫茶なんだもん! 余ってる服はそれしかないの! やるなら早くして!」



 飾ってあったメイド服を渡された。おそらく、明戸さんのメイド服だろう。きっと、明戸さんが一度試着してみたであろうメイド服。


「わかった!」


 ごくりと唾を飲み込み、僕はそれを丁寧に受け取った。そして、すぐに男子更衣室へ行く。



 鼻の下を伸ばしながら、これから良い行いをするんだと自分に言い聞かせてメイド服を眺めた。

 明戸さんの着たものだから、このまま匂いを堪能したりとか色々したい衝動は抑える。


 初めて着るメイド服に抵抗はあったものの、僕のリカバリー作戦は完ペキだと信じて、すぐに着替えた。

 割と小さめの身長が功を奏して、メイド服はピッタリだった。低身長バンザイ。


 鏡を見てみると、そこには可愛いメイド服姿の女子がいるようだった。我ながら、かなり似合うのではないだろうか。

 女装癖に目覚めたとしても、それも青春の一ページ。

 またの名を、黒歴史の一ページと呼ぶだろう……。



 たとえそうだったとしても、そのあとに綴られる薔薇色のページのための序章なのだ。小さな犠牲は大きな成功を生むはず。


 思い切り両頬を叩いて気合いを入れると、メイド喫茶へと戻った。



 ◇



 メイド喫茶に戻ると、女子たちからは歓迎された。


「すごい可愛いじゃん、桑原君似合うー!」

「サイズもピッタリじゃん、女の子みたい!」


 うんうん、これは成功の予感。……いや、大成功の予感だ!



「ありがとうございます」


 スカートに手を重ねて丁寧に頭を下げると、再度歓声が上がった。


「キャーー、可愛い!」

「すっごい良い感じ!」


 この反応をもらえただけでも、既に大成功かもしれない。ただ、本来の目的は明戸さんの好感度を上げることだ。

 好感度を上げるには、サボっているようじゃダメだから一生懸命接客に励もう。


 まずはお客さんを席へ案内することだろう。そう思って入口の方へと目を向けると、人影が見えたので近づいて接客を始める。


「いらっしゃいませー! メイド喫茶へようこ……って、俊介っ!!」

「あれ、桑原じゃん。なにやってんの?」



 俊介は驚きはしたものの、特に気にする様子もないようだった。


「いや、これには深いワケがあってだな……」

「あぁ、大丈夫。何となくわかったわ。協力してやるよ」


「おっ、おう! サンキュー!」


 何も言わなくても通じるって最強だな。やっぱり持つべきは親友だ。


 俊介は素直に接客されてくれるようだった。スムーズに空いている席へと案内されてくれた。

 僕の好感度を上げる作戦のために協力してくれるということだろう。良い客も見本だな。僕はできるだけ丁寧に接客を進める。



「ご主人様、ご注文はいかがいたしましょうか?」


 親友だろうと丁寧な接客。一生懸命やる方が好感度爆上がりだ。



「じゃあ、コーヒーで。あと、あっちのお客さんの注文まだみたいだから、行ってあげたら?」


「はいっ! かしこまりましたっ! ありがとうございます!」


 そう言って微笑みかけると、俊介は照れたような表情を浮かべた。



「……なんか、お前可愛いな」


 こんな僕にもお世辞を言うなんて、俊介は良いお客さんだな。他の女子に聞こえない声量で褒めたって効果無い気がするんだけれども。まぁ、ありがたくもらっておこう。


 俊介に再度ペコリとお辞儀をすると、一度レジへと向かう。注文用紙を取ろうとすると、店員さんがひそひそと話す声が聞こえた。


「アイツら、さっきも来たやつらだ……」

「もうやだよ……」


 注文を待っている席を向いて、怪訝な顔をして言うのだ。これは、もしかすると好感度を上げる大チャンスかもしれないぞ?


「大丈夫ですっ! 僕が接客してきますよっ!」


「えっ、本当!? 桑原君カッコいい!」

「桑原君、最高!」


 よしっ!

 これで、好感度が爆上がりした気がするぞ。ただの接客を代わるだけで、こんなに感謝されるなんて。僕にツキが回ってきたらしい。



 気分が高揚したまま注文を取りに行ってみると、そこにいたのはガタイが良い男三人組だった。


 身長は190cmくらい、座っている椅子は子供用なんじゃないかと思うくらい、男たちが大きく見えた。三人とも、うちの制服は着ていないようだったので、よその高校の男子なのだろう丁。


 強そうな体格に少し萎縮してしまうが、丁寧な接客を心掛けようと話しかける。



「い、いらっしゃいませー。ご注文は決まりましたでしょうか……?」


 男はこちらを睨みつけてくる。


「あぁー、やっぱりココの店、可愛い子が多いなっ!」

「午前中は見なかったヤツだぞ!」

「可愛いな!」



 こちらを舐めまわすような視線で見てくる。一瞬恐怖に身体を支配されてしまって、営業スマイルが引きつってしまう。そんな僕の様子を見て、男はニヤッと笑った。


「お前、来るのが遅えんだよ!? 早く注文票取りに来いやっ!!」


 男は机をガンッと叩いた。どうやらかなり怒っているらしい。



「コーヒー三杯持って来いよ!」


「あ、はい、かしこまりました。しばらくお待ちくださいませ……」



 確かに女子たちが接客したくないのも頷ける。典型的なカスハラ客だ。この接客は確かに辛い。注文を取りに来ただけなのに、辛いなんて……。


「オイッ! 俺たちを待たせんのか? 待っている間、俺たちの相手しろよ?」


「……はい?……まずは、この注文をレジに持って」

「うるせぇなーー!! お前らは、お客様を満足させるのが仕事だろ?」



 男は、僕の手をグイッと引いてきた。あまりの強さに、床に倒れて膝をついてしまう。

 そのまま男は僕の後頭部を掴んで、自分の下半身の方へと引き込んだ。


「お、お客様、何をなさるんですか……」

「んだ? 男を満足させる接客も出来ねぇのか? あぁ!!」


 男の股間へ顔をうずめられる。息ができない……。

 なんなんだ、こいつら……。


 どうにかあがいて股の間を出ると、男は不機嫌そうな顔を浮かべた。


「なんだ、抵抗すんのか? あぁ?!」


 男は勢いよく机を蹴り飛ばす。倒れた机の音が教室の中に響いた。

 今時、こんな高校生がいるのか……。


「くっ……!」


 こんな奴、どうしようもない。

 これ以上抵抗しても、周りの女子たちに迷惑が掛かってしまうだろう。それであれば、男である僕が犠牲になればそれで済むのではないか。


 とんだトラブルに巻き込まれてしまったけれど、これで明戸さんからの好感度が上がるなら……。

 そう思って、素直に男の足元にひざまずいて、土下座する。


「……申し訳ございません。接客させて頂きます」

「おぉ、わかったか? 初めからそうしておけやっ!」


 男は再度僕の後頭部を掴むと、ぐいぐいと下半身へ押しやる。男だぞ、僕は……。


「あぁん? なんだか態度が反抗的だなー?」


 別の男たちも口を挟んで来る。


「そもそも、この店は料金が高いんじゃねーのか?」

「この店、ぼったくりか? なら、金何て払わなくていいなっ!」



 言いたい放題だけれども。僕が犠牲になれば……。




「おい、デカブツー!」



 俊介の声が聞こえた。


「お前、典型的なカスハラだろ?」

「あぁん! んだお前?」


 僕の後頭部にあった手が緩んだ。見上げると、俊介は男たちの目の前まで来ていた。

 俊介は言葉を続ける。


「えーっと、脅迫罪、恐喝罪、強要罪、威力業務妨害、机の脚も曲がってるから器物破損、強制猥褻、暴行。ざっと数えてもこのくらいだな。お前、一瞬で何個罪を重ねたんだ?」


「はぁ? 何のことだよ。舐めたこと言ってんじゃねぇぞー? 俺はただコーヒーを注文してるだけだろうが?」



「はぁ。まぁ、お前が何を言おうとも、全部撮ってたから。スマホって便利だよねー?」

「お前っ!!」



「便利なところをもう一個紹介してやろうか? 今は指一本で通報できちゃうんだー! はい、これで終わりー」


 男は僕を突き飛ばすと、俊介に近づいていった。そして、俊介の胸ぐらを掴んで持ち上げた。男の表情は怒りに満ちている。今にも俊介を殴り飛ばしそうだ。

 それでも、俊介は余裕な表情だった。


「追加で罪を重ねたい派なの? まぁ、やるなら思いっきりやっていいよ。暴行罪が傷害罪へグレードアップするけどな。証拠として残るように、ここにいる店員さんに協力してもらって、全部撮ってるから」


 周りを見渡すと、みんなスマホを構えて撮影しているようだった。


「……っく。んだよ、シラけるな。お前ら行くぞ」


 そう言って、男たちは教室を出ていった。男たちが見えなくなるまで、店員さんたちは動画を撮り続けていた。見えなくなったところで、歓声が沸いた。


「すごーい! 俊介君!」

「カッコいいーーー!!」


 俊介の勇気ある行動で、迷惑な客たちを追い出すことができたのだ。これは、俊介の好感度が爆上がりだ。良い客の域を超えた気がする。僕自身も、とても助かった。


「俊介、ありがとう。助かったよ」

「あぁ、良いってことよ!」


 あれだけのことをやってのけたのに、俊介は威張る様子も無くいつも通りの優しい笑顔を僕に向けて来た。女子店員さんだけではなく、僕からの好感度も上がったと感じてしまった。




 ◇




「はぁー。文化祭、大変だったねぇー……」

「メイド喫茶、お疲れ様。お前可愛かったな」


「メイド喫茶の件だね、助けてくれてありがとう」


 俊介は満足そうに頷いていた。その顔は、以前よりも頼もしく見える気がする。

 もしも僕が女子だとしたら、こんなやつを彼氏にしたいかもしれないと思うくらいにはカッコよく見える。


「それで、どうだったんだ? 明戸めいどさんの好感度上がったか?」

「いや、結果から言うと意味無かったよ。店員さんとして頑張っても、好感度は上がらないみたいだね。やっぱり良い客作戦の方が良かったなー。俊介みたいヤツ、僕もやりたかったよ」


「ははは、だなー」



「あれのおかげで、女子店員さんの好感度爆上がりだったよ。漏れなく僕の好感度も上がっちゃったぜ!」


 少しふざけた感じで言ったのに、俊介は照れたように笑った。なんだか、いつもの俊介らしくない気がした。

 不思議そうに俊介のことを見つめていると、何かを思いついたように口を開いた。


「そう言えばさ、お前に紹介したいバイトがあったんだよ」

「なになに? もしかして楽なバイトってやつ!?」



「あぁ、レンタル彼氏バイトなんだけどさー」

「おぉ! この前リクエストしてたやつじゃん! 僕、それやってみたいよ!」



「まぁなんと言うか、ちょっと特殊なんだけどさ。レンタルされる彼氏は、メイドの格好をしたり、依頼人の傍にいるっていう仕事なんだよ」

「へぇー? 文化祭で一回メイド服着てみてたから抵抗はないぜっ。やるやる!」



「じゃあー、交渉成立だな」

「おう!」


 俊介は、にこりと微笑んだ。



「依頼人は俺だ。よろしく」

「……ほぇ?」



 俊介は照れているのか、頬が赤く染まった。


「俺とデートしようぜっ!」

「んー、まぁいいけど? それって、結局いつもと同じなんじゃないのか? いつも遊んでるし……?」


「そう言われたら、そうかもな! じゃあ、今日は俺が行きたいから、カラオケでも行こうぜ!」

「おう!」


 お金をもらうけど、いつも通り遊ぶだけ。

 文化祭作戦が失敗してしまったから、俊介が僕をねぎらってくれるっていうことだろう。カラオケを奢ってくれるっていう、ただそれだけのことだろう。

 それ以上でも、それ以下でもないはず。



 ただ、レンタル彼氏としてお金をもらうことになったので、それらしくしてみようと思う。

 前を歩く俊介に追いつき、手を取る。そして、ギュッと握ってみる。


 頬を赤く染めている俊介。男同士で手を繋ぐなんて、やっぱり恥ずかしいのかもしれない。

 多分、僕の頬も赤くなっていることだろう。



 俊介の彼氏役だとしても、別に変な気持ちは湧かない。

 優しくて頼もしい俊介の手に包まれるのは、むしろ悪くないって思う。俊介になら、何をされても良いかもしれない。


 もしかするとメイド喫茶の件で、明戸さんの好感度を上げるはずだったのに、店員として働いていた僕の好感度が爆上がりしてしまったのかもしれない。



 このまま成り行きに任せていけば、僕の青春の一ページは黒歴史の一ページになるかもしれない。けど、それでも、僕はそのページを綴りたいと思ってしまった。


 俊介との薔薇色の青春。



 End

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学年一の美少女、好感度爆上げ大作戦!!これで、僕は薔薇色の高校生活を手に入れました!! 米太郎 @tahoshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ