冬、晴れた日
紫陽花
冬、晴れた日
冬の晴れ間は珍しい。いつか母が言っていた。
子供の頃そんなこと考えたこともなかったけれど
大人になって分かる。冬は洗濯物が乾かない。
せっかく干しても夕方乾いていないから
取り込んだところで部屋に干すことになる
それを あの人は嫌う。所帯じみていて嫌気がさすって。
私と所帯を持ったのになんなのかね、その言い草。
私が傷つかないとでも思ってるの?なんて聞いてみたいけど
悪びれもせず知らん顔。黙っていると
「そんな顔されると 家にいたくなくなるなぁ」
は?何それ。私のセリフね。「家にいたくなくなる」
いい天気なのに気分が晴れない。洗濯物が乾かない。
奇麗な横顔が台無しよ そんなに不貞腐れちゃ。
付き合っている頃 1度だってそんな顔見せたことなかった。
いつも優しくて思いやりがあって
私が嫌がることの全てを 向こうへ追いやってくれた。
あの人とあなたは同じ人ではないわね きっと。
別人よ 違う人。どうやって家に入ったの?
あの人はどこにいるの?教えなさいよ
なんてね。我ながら下らないこと考えたわ。
あの頃と別人になった。人が変わった。
若しくは 別人を装っていた。私を娶るために。
世の中 多様性と喧しいくらいなのに
所帯を持たなきゃ出世できない職場環境が
未だに存在するなんてね。こんな身近に。
知らなかった。知っていたら結婚なんてしていない。
そんな理由で冬の洗濯物に向き合えるほど
私は淑やかでも大人しくもない。あなたは知らないだろうけれど。
そうやってそっぽ向いていなさい。気が済むまで。
私はとりあえず洗濯物を片付けてくるから。
洗濯物を片付けて シンクに溜まった洗い物を片付けて
昼食の下ごしらえ済ませたら 声をかけるから。
そのとき 私の問いかけにしっかり答えてね。
私は逃げたりしないから。絶対に。
冬、晴れた日 紫陽花 @umemomosakura333
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