薔薇色症候群

ライデン

第1話 貴女は悪魔の生まれかわりかなにか、かしら!?

 兵庫県宝塚市にある県立高校。私・白鳥千夏しらとりちなつは、解放感に浸っていた。


「終わったー!」

 1週間にわたる期末試験がたった今、終わったのである。


「千夏ー、あーそーびーましょう」


 早速、元気一杯に声をかけてきたのは……小学校からのくされ縁…いや、大親友の綾瀬雛あやせひな


「遊ぶって、何をするの?」


 とある事情で、大変ストイックな生活を自らに課している私。大親友とはいえ、誘いになんでも乗るというわけにはいかない。



「みんなでCafe・プリンセの昼飯とKINGいちごパフェ、食いに行こうぜ」



「……はあっ!?💢」


 淑女を目指す私。つい、素っ頓狂な声を上げてしまった。


「雛ちゃん、雛ちゃん! ちーちゃん、キレてるよ。激おこぷんぷん丸だよっ」


――激おこぷんぷん丸って、今日び聞かないわ💦


 小柄でツインテールのこの子……佐脇菖蒲さわきあやめが言うと可愛いからいいのだけど、中性的な長身で髪形がショートカット・バスケ部の雛が言ったらブン殴らない自信がない。



「なんだよ、なんだよ。期末試験という高校生最大級の難所を超えた時くらい、はめを外してもいいじゃんよー」


 雛は私の類まれなる目力と怒気に気圧されながらも、だだをこねる。


 雛が熱心に誘ってくれているというか……誘惑しているCafe・プリンセスのKINGいちごパフェというのは、全長30cm・いちご・生クリーム・スポンジケーキ・アイスクリームの山なのだ。つまりは、脂質と糖質とカロリーの塊。


 乙女の本能を無茶苦茶刺激する魅惑の山を美味しそうにほうばる人達を目の前に見せつけられながら、私1人だけ無糖のストレートティーかブラックコーヒーでも飲んでおけとでも!?


――なに、その地獄の拷問💢


 私は習い事、雛と菖蒲ちゃんはそれぞれ別の部活で忙しく、なかなか一緒に遊べない。行けるときに行きたいのはやまやまだが……アレはダメ。絶対!



雛嬢ひなじょう貴女あなたは悪魔の生まれかわりかなにかなのかしら!?」


 ジト目、棒読み。



「雛嬢? 貴女??」


 目をしばだたせ、キョトンと首をかしげる雛。


「ちーちゃん。ちーちゃん。その言葉遣いは、違うと思う💦」


 菖蒲ちゃんに言葉遣いをマジツッコミされてしまった💦

 いや。ちょっと、ふざけただけなのだが。


 まぁ、言葉遣いも審査の対象。普段から正しく美しい言葉遣いを心掛けている。


「流石は、千夏!セリフが芝居がかってますなぁ」  


 雛が感嘆する。


「お互いなかなか遊ぶ時間が合わないから、行ける時に行きたいのは、やまやまなのだけど……アレはダメ。絶対! ごめんなさい、私に遠慮せずみんなで行って来て。私は、図書室で本でも読んでおくわ」


 私が受けようとしているのは、宝塚音楽学校。「東の東大、西の宝塚」と呼ばれる最難関。毎年、1000人以上が受験して40人しか受からない狭き門だ。「こんな時くらい、ハメをはずしていいじゃんよー」とか、ありえない。 


 宝塚音楽学校は、町中を歩いていた時に関係者の人に受験を勧めてもらった。スカウトと言うには、試験が免除される訳でも学費が免除される訳でもないから違うと思うが……誰にでも声をかけているわけでもなさそうだったので、私の何かがその人の琴線に触れたのだろう。 


(期待されたからには、答えねば!)


 それが、私の性分。


 さっそく取り寄せた募集要項には、受験資格として“”受験時に中学卒業あるいは高等学校卒業又は高等学校在学中の方。(通信制高等学校在学中で年間所定単位修得見込者は含みます。但し※専修学校、各種学校は含みません。)

※専修学校のうち、大学入学資格を付与された高等課程在学者は応募資格があります。

心身ともに健康で、卒業後宝塚歌劇団生として舞台人に適する方”とあった。


 2024年から受験資格に“容姿端麗”という項目が削除されたらしいが……(“舞台人に適する方”にやんわりと包括されただけだろがい💦)と内心、ツッコんだのは内緒。そこも絶対、審査の対象だろう。


“審査内容 · 面接では、容姿、口跡、動作、態度、華やかさ等、宝塚歌劇の舞台への適性を審査します。 · 歌唱試験では、課題曲の歌唱により、声量、声質、音程等を審査します ”とも書いてあった。


 従って……私の習い事は、歌やクラシックバレエ・茶道や華道等、多岐にわたる。毎日、何らかの習い事に行っているのだ。たくさんの習い事を文句一つなくさせてくれる両親には、感謝しかない。



 これから図書室で読むのは、宝塚歌劇団の代名詞。“ベルサイユの薔薇”。


 原作、池田理代子。舞台は、フランス革命まっただ中のフランス。宝塚では1974年から毎年のように興行される。大人気作。


 私が夢見ているのは、宝塚音楽学校への入学することだけではない。宝塚歌劇団のトップオブトップの証明。“ベルサイユの薔薇”の主人公。オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェを演じること。


 まだ合格してもいないのに、この目標は、大きすぎるかもしれない。人に笑われるかもしれない。宝塚音楽学校に入学した後、いじめられるかもしれない。だが、挑戦するだけなら自由。“見る前に翔べ”だ。


“ああ我が名はオスカル、時代の嵐の渦巻く空を何処へ翔び立つ♪”


 きらびやかなスポットライトを浴びながら、万雷の拍手を浴びる存在に絶対、なってやる!

これからの人生がどれだけ険しく、いばらの道であったとしても。




  【あとがき】

 宝塚では、これぞという人に音楽学校への受験を勧める関係者の人が実際に存在するようで、知り合いも勧められたことがあると言ってました(天海祐希さんや檀れいさんもそういう経緯で音楽学校に興味をもって受験したそうです)。その人、背がすらっと高くて色白な顔立ちのはっきりしたものすごい美人さんタイプ。というか、大企業の創始者家のご令嬢様。普段の所作とかもめちゃくちゃ綺麗。確かに関係者に声をかけられてもおかしくない感じでした。


 あと、宝塚音楽学校の二次審査を受ける子にあったこともあります(こっちは京都市民。現役JKだった)。二次審査・最終審査にまで通ったか分かりませんが多分、あの子は通ったはず。その子 もすごいスター性を感じたし。それで、なんとなく宝塚が求める子がどんな子かわかった気になって即興で書いてみました。町中で声をかけられる人も一次審査を通って二次審査を受ける子もぱっと見てはっきりわかる美しくさや品や目力やスター性がありました。その上で明確な夢や目標を持ち、夢の実現に向かってストイックに努力し続けられる人間だけが1000人以上の中から40人しか選ばれない超エリート集団の中でトップオブトップになれるのかも? これは、そんなお話です。

 お題の“薔薇色”のイメージに合っているかわかりませんけども。


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