黒野くんがわからない!
氷室凛
前編 黒野くんのプレゼント
「ロゼ、誕生日おめでとう」
言葉と共に黒野くんがラッピングされた包みを手渡してくる。ん、そこそこ大きい。
「嬉しい、覚えててくれたんだ! 開けていい?」
「当たり前じゃん、もう何回目の誕生日だよ。ほら、開けて」
「本当に嬉しい。この前喧嘩しちゃったからさ、今年はないかもって思ってた」
ラッピングを丁寧にほどく。中から出てきたのは──1冊の本だった。
本? どうして? 私べつに、本好きってわけじゃないけど……。
疑問に思いながらページを開いて、それはすぐに歓声に変わった。
「アルバム! え、すごい、すごい小さい頃からの写真もあるじゃん。どうやって手に入れたのこんなん!」
「伊達に10年以上幼馴染やってないからね。ね、俺とふたりの写真の数数えてみて?」
アルバムは幼稚園のころから始まっていた。懐かしいな、黒野くんと会ったのはその頃だっけ。
幼稚園で仲良くなって、そこから小学校も中学校もいっしょ。高校は別々になっちゃったけど、黒野くんはいまでもよく遊ぶ幼馴染だ。
──そう、幼馴染。
きっと、黒野くんにとって、私はただの幼馴染。
だけど、私は──。
アルバムをめくり終わる。幼稚園のお遊戯会から始まって、小学校の運動会に中学校の修学旅行。そして最後は先月ふたりで撮ったプリクラ。
「黒野くんとのツーショは12枚! えへへ、たくさんあるね。なんだかんだ年イチくらいは撮ってたんだ」
「うん、ロゼとの写真は12枚」
黒野くんが何か言いたそうにこちらを見る。
彼の癖だ。黒野くんは自分の考えを伝えるのが苦手で、小学生の頃なんかは、よく私が代弁したりしたもんだ。
高校生になった今でも、黒野くんは私にだけテレパシーを使ってくる。大概は私もうまく受信できるんだけど、でも、今回は──
彼の意図がわからない。
「12枚だね。えっと、それで……?」
沈黙に耐えかねて直接尋ねる。
けれど黒野くんは、「なんでもない」と目を逸らした。
「ごめん、変なこと言って。さっきのことは忘れて。ロゼ、誕生日おめでとう。これからもよろしくね」
黒野くんが柔らかく笑う。私の好きな笑顔。
けれど、なんだか──彼の心がとても遠くへ離れていってしまったような気がした。
♦︎♢♦︎
「──ってことがあったんですよ! あれ、絶対なんか言いたいことがあったでしょ! だから今までずっと考えてたんですけど、でも、わからなくて……」
妙にモヤモヤするプレゼントをもらってから1週間。私、
その名も「お悩み相談部」。
この学校は部活動だの研究会だのが盛んだけど、その中でも群を抜いて変わった部活。同じ学生に相談したって、と内心思っていたけれど、紹介してくれた友達の話じゃ、アホほどビジュのいい男子がなんでも解決してくれるってもっぱらの評判らしい。
イケメンと話せてあわよくばあのアルバムの謎が解決できるなら、まぁ、ってことでイマ。
「それは困ったわねぇ」
顎に手を当ててのんびりと言うのは3年で生徒会長の
キキさんは髪の毛が数房真っ白で(生まれつきらしい)、その白い髪をうまいこと編み込んでアレンジしている。うん、今日も優雅で可愛らしい。
「アルバムの話に移る前に聞いておきたいのだけど。ロゼちゃんは、黒野くんのことをどう思っているの?」
「え、その。幼稚園からの幼馴染ではあるんですけど……。その、最近ちょっと男らしくなってきて……」
「うんうん。それで?」
「それで、えっと……。ちょっと、ちょっとだけ、気になる、っていうか……」
穏やかに微笑むキキさんから私は目を逸らした。別にやましいことがあるわけじゃないけど、こう、改めて口に出すと、けっこう恥ずかしいっていうか。
「つまり、好き、なのね!?!?」
「わっ!」
突然キキさんにガシッと手を握られ、私は肩を震わせた。
真っ直ぐに私を見る彼女の目は──先ほどまでの優雅さはどこへやら、キラキラと小学生みたいに輝いていた。
「ロゼちゃん、お悩み相談部に来てくれてありがとう。あなたの恋の悩み、しっかりと受け取ったわ!!」
違う違う。言ってない言ってない。いや確かに、黒野くんとの関係に悩んでいるかいないかで言えば悩んでいるけれど、今日はそんなつもりじゃなかったっていうか……。
そんなことを考えながら思い出す。
生徒会長の白沢希喜さん。清楚で可憐で優雅な彼女は、生活指導委員長の男子と、もう何年も両片想いしてるって有名だった。
そして、──本人には絶対言えないけど──学年トップの成績を誇るくらい頭がいいのに、恋バナになると途端にIQ30くらい下がるって。
「私たちが、アルバムの謎も立ち塞がる恋の障害も、すべてまるっと解決するわ! ね、サトル!」
うーん。恋の障害、あるのかなぁ。
作者コメント:
次回より解決編です!
黒野くんは何を伝えたかったのか? ぜひ考えてみてください〜!
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