荒廃都市のスカベンジャー
鴎
第1話
荒廃した景色だった。
曇天の下に広がるのは昔大都市だったものの残骸たち。
2133年。新しく生み出されたエネルギー構造物。フォトニック・マテリアにより世界のエネルギー問題は解決された。半永久的にエネルギーを生み出すこの構造物はあらゆる技術に応用され、世界はようやく大きな問題から解放されたかに思えた。
しかし、マテリアを独占する大国と後進国の間の軋轢により大戦争、『大戦』が勃発。
マテリアにより容易に生み出され、あらゆる国が持つに至った戦術兵器により大戦は泥沼の大きな戦争に発展。世界人口を3分の1に減らすまで続いた大戦は世界の国々を回復不能にばるまで崩壊させ、人類の文明圏は一度完全に消滅した。
そして、大戦から160年。細々と生きた人々はそれぞれの地域でそれぞれのコミュニティを発展させ、なんとか生存していた。
「今日も天気が悪いな」
俺はそんな歴史の残骸を眺めながら言った。
「知ってるか? あの雲の上には青い空が広がってるんだとよ。街のじいさんが昔雲の切れ間に実際見たって話してた」
「そうですか。それは綺麗でしょうね。ですが今は仕事に集中してくださいアヤト」
にべもなく話を切られた。
アヤト・フリューゲル。それが俺の名前。
「世間話くらい乗っても良いだろ。だから街の子供に怖がられるんだ、レジーナ」
「余計なお世話というやつでしょうね」
彼女は、レジーナは小銃にマガジンをセットしながら言った。
彼女が俺の相棒だった。
第6世代のドール。有り体に言えば人型ロボット。
見た目は短髪ブロンドでナイスバデーの美人だが人間ではない。
大戦の遺産、人間の代わりに戦う目的で作られた兵器、それがレジーナだ。
ロボットだが人間と同じように感情がある。マテリアを演算回路に組み込んだらロボットに感情が生まれたとかなんとか。難しい話は俺も知らない
「仕事ね。やるしかないからなぁ」
俺も自分の武装を確かめる。
頭以外を覆う薄い安物のパワードスーツ。手元にはマテリア機構を組み込んだ自動小銃。背中には各種武装と救命道具を積んだバックパック。
これが俺の仕事着だった。
「ギルドからの情報によれば第7区画にセンチネルが3体入っているようです。交戦は避けたいですね」
レジーナは腕の端末から浮かび上がるホログラムの画面を眺めながら言った。
「なら東側の離れた区画に行くか。でも、あそこもう大分探索されてるしな」
「もう少し南なら手付かずの区域も多いですけどね」
「遠いからなぁ。パーツにしろマテリアにしろ重いし。もうちょっと良いドローンが買えれば仕事もしやすいんだけどな」
俺は俺たちの後ろに控える流線型のボディにプロペラの付いたかわいい相棒を見る。全長2mのドローン。レジーナがハッチと命名した運搬担当だ。ハチから着想を得た命名らしい。色々安直だ。
「ダメですよ。ハッチは私たちの仲間です」
だが命名を担当したからなのかレジーナの愛着は相当なものだった。
「まぁ良い。今日のアガリは期待できないけど、安全第一でいくか」
「了解です」
そう言うと俺はフェイスアーマーをかぶり、レジーナと共にハッチに付いたハンドルに捕まる。
ハッチはそのボロいプロペラをけたたましい音を立てながら回転させ浮上した。
そして、廃墟の街に迫っていく。
元は大国の主要都市だったのだが見る影もない。
何もかもが崩れかけで、その中を大戦からずっと稼働している自立兵器が闊歩している。
「良いパーツが取れれば良いけどな。なるべく弱いのが良い」
「この仕事はやる気がないものから死んでいくそうですよ」
「はいはい! 気合い入れれば良いのね! むんっ!」
この廃墟で全時代の遺産を残骸を漁り、時には自立兵器を『狩り』、パーツやマテリアを回収し納品する。
それが俺たち『スカベンジャー』の仕事だった。
荒廃都市のスカベンジャー 鴎 @kamome008
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