どうしてこんな目に!?

月丘翠

第1話

高校から帰って家に入ると、見知らぬ女と父親の大介だいすけにニコニコと出迎えられた。


「どなた・・?」

涼介りょうすけは混乱しながら、「まぁまぁ」と大介に促され、リビングのソファーに座らさせられた。

ソファーに座ると愛猫のかつおがひょいっとの膝にのってきて、女を警戒して睨みつけている。


「いや~緊張するなぁ」

大介が女の人と目を合わせてデレデレしている。

「・・・何?」

涼介が大介を睨みつけると、照れながら2人で顔の横に左手を添えた。

2人の薬指には、小さな石のついた指輪がついている。


「結婚しました!」


「結婚・・・しました!?します、じゃなくて?」

驚いて涼介がそう問いかけるが2人の世界に入ったのか、質問には答えずイチャイチャしている。

涼介が、バン!っと机を叩くと、やっと2人は涼介をみた。

「何だよ、反対なのか?」

「反対はしてねぇーよ。お袋が亡くなってもう10年も経つし」


涼介の母親は10年前に病気で亡くなった。

そこから社長として会社を運営しながら、男手一つで育ててくれた。

ここらで自分の幸せを考えて結婚するのも決して悪い事ではない。


「でも、普通相談するだろ?結婚しようと思うけど、どうかなー的な」

「いや、結婚するのは俺らだし。ね?」

「うん」

女の人もニコニコと大介を見つめている。

「・・・で、この方のお名前は?」

野々原ののはら美奈子みなこさん。俺がよく行く小料理屋の女将さんで、色々話している内に付き合うようになったんだよ。ねー、みなたん」

「ねー、だいちゃん」

高校生のバカップルならまだしも、親のバカップルぷりは見てられない。

涼介はため息をつくと、頭を抱えた。

「まぁいいけどよ。いつから一緒に住むんだよ?」

「え?今日からだけど」

さらっととんでもないことを言ってくる。

「それに伴ってお前の部屋をこっちにしたから」と父親に促されて奥の和室をみると、涼介の家具や物が乱雑に和室に置かれている。

「何で俺の部屋を変える必要があるんだよ!?」

「だって、部屋足りないし。ねー?」

「ねー」

「ったく、どういうことだよ」


涼介は急いで階段を上がって2階の自室の扉を開けようとするが、カギがかかっているのか開かない。

「おい!涼介!やめろ」

扉を開けようとする涼介の腕を慌てて大介が掴んでくる。

「どういうことだよ、親父!」


「美奈子さんにも連れ子がいるんだよ」

「はぁ?」


下に降りて話を聞くと、美奈子にも連れ子がいて、その子がどうやら引きこもりらしい。

しずかは半年前から引きこもりで・・・この引っ越しも本当に大変だったの」

美奈子が泣き出すと、大介が寄り添って「みなたん、いいんだよ」と優しく声をかけている。

「で、なんで俺の部屋なんだよ」

「1階の和室だとカギがかからないだろ?カギがかからないと落ち着かないらしいんだ」

「なんだよ、それ・・・」


「まぁまぁ、同い年の兄弟なんだから仲良くしろよ」


「同い年?」

「静も同じ高校なのよ」

「同じ高校!?マジかよ・・・」

涼介は大きなため息をついた。

「同じ高校だと困るの?」

「あぁ。こいつ元ヤンなんだけど、それを隠してんだよ。優等生のふりしてメガネとかかけてるけど、頭はバカなんだよ」

「親父・・・!いらんこといってんじゃねぇ!」

涼介が立ち上がってそう言うと、大介も同じように立ち上がって、涼介の胸倉をつかむ。

「なんだとコラァ!親への口の利き方がなってねぇな!!」

つかまれた涼介も大介の胸倉をつかんだ。

「こわいぃぃ」

美奈子が泣きそうな声を出した瞬間に、大介は慌てて涼介をソファーに向かって押して手を離すと、美奈子の手を握る。

「ごめんねぇ。怖かったよね」

「ううう」

「ごめん、ごめん。みなたん」

2人のバカバカしいやり取りをみてため息をつくと、涼介は和室に入った。


翌朝目を覚ますと、ガタゴトと音がする。

そっと扉を開けると、見知らぬフードを被った奴が冷蔵庫から何かを取り出してる。


(あれが、引きこもりくんか・・・)


がらりと扉を開けると、引きこもりくんはビクッとして慌てて2階へあがろうとする。


「ちょっと待てよ!挨拶くらい・・・」


引き留めようと正面から胸を押すと、なんとも言えない感触がある。


「ん・・・これは・・・」

引きこもりくんは、涼介が戸惑っている間に2階へ駆け上がっていく。


「引きこもりくんじゃなくて、引きこもりちゃんじゃねぇか!!」


涼介は落ち着くために水でも飲もうと、冷蔵庫を開ける。

「こんな大事なこと親父もちゃんと言えよな」とぶつくさ言って、水を飲むとダイニングテーブルに手紙が置いてあるのが見える。

「手紙・・?」

封筒を開けて、手紙を開く。


“涼介へ

今日から新婚旅行に行ってきます!三ヶ月くらいで帰る予定です。ハネムーンベイビーを期待しといてくれ。あと静ちゃんのことよろしく

父より”


「あんのクソ親父―――!」

大きな声を出すと、上からドン!と音がする。

うるさいとでも言いたいのだろう。


「どうして俺がこんな目にあうんだ!!!?」

 

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