第2話 少年と少女

「アデリー・ル・ヒナタねぇ」

レンが持っているアデリー家の情報はさほど多くはない。情報屋に尋ねればあるだろうが、スパイでもないレンは使ったことがない。

「あ〜、レン先輩が浮かない顔してる〜。どうしたの〜?」

「…………」

レンが、ボスから渡された地図を解読していると、ぴょこぴょこと少年と少女が近づいてきた。

二人とも13歳だ。たが、声や喋り方は幼さが残る。

少年は元気がいいが、少女の方は無表情で猫を抱えたまま喋らない。

少年は、なにそれ〜と言いながらレンの地図を見る。

「お前らか。って、おい。引っ張るな。それは、ただの地図だ。あっちに行け」

しっしとレンが追い払うが、少年は地図を引っ張って離さない。

「見せて〜」

「だめだって言ってるだろ」

「…………」

少女が黙って見つめる中、地図はまっぷたつに破れた。レンも少年も破れた衝撃で後ろへ倒れる。

地図だった紙切れが少女の足元に落ち、驚いた猫が破り、地図は紙切れ同然となった。

「あ〜あ。破れちゃった〜」

「こいつめ、ガキだからって許されると思うなよ」

「……Aの3番地。20583の48。それがその家の住所」

少女が紙切れとなった地図を指さした。

「列車で行くなら北西の方に進めばいいと思う」

「え…?」

「少女が、喋った……」

少年はいつもの喋り方を忘れ、レンは煙草を手から落としていた。

なぜ二人が驚いているのかというと、少女は喋らないことで有名で行動を共にしている少年でさえ、少女の声は聞いたことがないという。

「しゃ、喋れたの?」

「うん。当たり前」

「なんで仕事中も喋ってくれないの?……どうして今喋ってるの?」

「猫が逃げたから。だから喋った。仕事中は喋りたくない」

少女は、紙切れと戯れる猫を撫でながら言った。少女はぶっきらぼうたが、猫を見つめる瞳は暖かい。

「あれ本物だったんだ。動かないからてっきりぬいぐるみかと」

レンが猫を見る。猫はまるまる太っていて、灰色の綺麗な毛並みをしている。きっと、少女が面倒をみているのだろう。耳に付いた飾りに『少女』の文字がある。

「サンセリーヌヒアラリーを馬鹿にしないで」

「名前なっが」

どうしてそんな名前になったんだよ、と聞きたくなるほど長い。

「依頼、急ぎなら早く行ったほうがいいと思う。北西に行く列車は10時間に1本だから。あと、30分で来るよ」

「……少女〜。俺の代わりに行ってきてよー。メシ奢るからさー」

レンが少女の前で手を合わすが、少女はきっぱりと断った。

「やだ。これからスカークさんと仕事だから。おいで、サンセリーヌヒアラリー」

「え、スカークって、あのスカーク?」

レンが、驚き……というよりは若干引きながら聞いた。

「スカークは一人しかいないよ〜。…僕、あの人きら〜い」

「俺もアイツ無理」

レンと少年が頷きあっていると、あの灰色猫を抱えた少女がやってきて少年の腕を引っ張った。

「ええ〜、もう行くの〜。……分かったて〜。じゃ〜ね〜レンせんぱ〜い」

「ああ、ありがとな少女。あと、少年」

「ひど〜い。僕だけオマケみたいじゃ〜ん」

「…………」

「ちょっと〜。少女、引っ張らないでよ〜」

少女と半端引きずられる少年が見えなくなると、辺りにはレンしかいなかった。


葬式はまだ終わっていないらしく、レンが所属する殺し屋の本拠地には人の気配がない。

本拠地の建物は、一種の宮殿のように広く大体のことはここで済ませられる。例えば、買い物とか武器調達とか。

部屋は二人で一つが一般的で、殺し屋歴や実力が高ければ高いほど優遇され、一人部屋を与えられる。

レンは後者の方で、殺し屋のランク的にも上位にいる。殺し屋のランクは、殺し屋歴や才能・実力で決まる。上位層はボスを含め5人。あとは、中位層が15人、下位層が20人、殺し屋以外の入口の受付嬢や店の定員とかの人間が15人ほど。

「煙草とライターと短銃だけでいいか。あと、ナイフ」

レンは自分の部屋の隅にから、黒いスーツケースを引っ張り出してきた。

レンの部屋は棚だらけだ。特に目立つのは煙草が入った棚だ。端から端まで同じ銘柄の煙草が綺麗に並べられているのだ。しかも三棚ある。

レンはスーツケースに煙草を5、6箱と短銃を詰め込み始めた。他にも食料やらお金を入れたスーツケースを持って部屋を出た。


「どうか面倒くさくありませんよーに」

レンはスーツケースをつかみ、『牢獄』から離れた。


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