ほろ酔い幻想記

@chauchau

第1話


 たられば。

 たられば。


 酒はいい。

 ありもしない過去を、ありえもしない未来を私に見せてくれるから。今日も一口、それだけで幸せなたらればが私を待っている。


 無駄に豪華な一張羅。

 不釣り合いな缶チューハイ。私にお似合いな安い酒。


 使い道に困る大皿だって、後味さっぱりなバームクーヘンだって、やっぱり選べるカタログにはかなわない。なんといっても帰り道が身軽な利点にはかなわない。


 たられば。

 たられば。


 酒はいい。

 あった過去を、ありえた未来を私から遠ざけてくれるから。今日も一口、それだけで不幸なたらればが私から逃げていく。


 スマフォの通知音。

 無事に帰れたかと問いかけてくれる友。私の大切な宝物。


 式中には絶対に泣くなと、腹を殴っても笑っていろと、やっぱり彼女にはかなわない。私の本当を教えてもいないのに察するなんてかなわない。


 たられば。

 たられば。


 酒はいい。


「ご結婚おめでとうございまーす!」


 いともたやすく嘘だって吐かせてくれるから。

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