【短編】転生者、魔法の理(ことわり)を探る
つけあげ103
第1話 魔法がある世界
***魔法がある世界***
「おじさん、風魔法が使えるんでしょ?」
辺境都市チホウ領主チチ・コウの元に訪れた商人に尋ねるのは3歳になったばかりのチチ・コウの息子シュジン・コウである。
「そうだよ。良く知ってるね」
そう答える商人にシュジン・コウは更に尋ねる。
「じゃあ、おじさんのお父さんとお母さんの使える魔法はなあに? 子供いる?いるなら奥さんと子供が使える魔法も教えて」
何故こんな質問をするのか不思議がるも商人は優しく答えた。
「お爺さん、お婆さんの使える魔法は?」更に尋ねた。
商人の返事を紙に書き写すと
「母さん、紙に書ききれなくなったー」
とシュジン・コウは母親ハハ・コウに新しい紙を貰いに行った。
***前世***
「この世界にノートパソコンあればなあ」
シュジン・コウは5歳になり、1人で屋敷の外に出る許可をもらった。それで2か月くらいかけて辺境都市の家を周り各家庭の家族構成と使える魔法を聞き回った。
紙に書き留めた''使える魔法''をまとめながらシュジン・コウは思った。表計算ソフトでデータを整理したいと。
◆◆◆◆◆
シュジン・コウは転生者である。生後半年の時に転生前の記憶が甦り、自分が転生者である事に気付いた。
彼は大学に通っていた時に病気を患い入院した。
担当の看護師は占いが好きな笑顔が素敵な人で、彼を病室に案内するとすぐに血液型を聞いてきた。
「血液型と性格に科学的根拠ないですよ」素っ気ない返事に彼女は少し悲しそうな顔をした。
彼は20歳の誕生日を迎えることなく死亡し、この世界に転生したのである。
◆◆◆◆◆
***魔法についての考察***
シュジン・コウは紙にまとめた''属性魔法''データについて考える。
この世界には火、風、土、水の4つの属性魔法があり、使える魔法が親から子へ遺伝するのは知られていた。
しかし不思議な事がある。彼が知る限り、人が使える魔法は2種類までである。
父親と母親で火、風、土、水の4つの属性魔法を網羅していても子供は父親と母親から1つずつの属性魔法を引き継いで2つの属性魔法までしか使えなかった。
これはどういう事だろうか?しばし考えて似たような事を彼は思い出した。
そう、ABO式血液型だ。それに当てはまて考えると使える属性魔法は2つの遺伝情報によるものだと考える。ここで注意すべき事があり、魔法が使えない人がいるという事。そこで属性魔法の遺伝情報に''無''の遺伝情報を追加して考える。
火、水、風、土、無から2種類の組み合わせは
火、 水、 風、 土、 無
火:火火、火水、火風、火土、火無
水:水火、水水、水風、水土、水無
風:風火、風水、風風、風土、風無
土:土火、土水、土風、土土、土無
無:無火、無水、無風、無土、無無
となる。
これだと魔法が全く使えない''無無''の属性魔法遺伝情報を持つ人は1/25で全体の4%になる。
しかし、この辺境都市で魔法が使えない人は調べた限りだと
3062人中393人だったから、393/3062で約13%だ。
隔たりがある。
仮に''無''が2種類だったらどうだろうか?
''無''と''む''とした場合を考える。
火、 水、 風、 土、 無、 む
火:火火、火水、火風、火土、火無、火む
水:水火、水水、水風、水土、水無、水む
風:風火、風水、風風、風土、風無、風む
土:土火、土水、土風、土土、土無、土む
無:無火、無水、無風、無土、無無、無む
む:む火、む水、む風、む土、む無、むむ
となり、火、水、風、土の属性魔法遺伝情報を含まない組み合わせは
4/36で約11%だ。
少し実測値と隔たりがあるが、これは地域ごとのバラツキによるのかもしれない。血液型の分布が地域ごとにバラツキがあるように。
つまり、
「使える属性魔法は遺伝する!と考えて良いな」
「しかし、そうなると僕は………」
***祝福の儀***
月日は流れてシュジン・コウの8歳の誕生月となった。
今日は5月の第1安息日で「祝福の儀」がある日。
「祝福の儀」とは毎月の第1安息日にその月に8歳を迎える子供達が集められ、各個人の使える属性魔法を告げられる。
そして、豊穣の女神の祝福を受ける。
ここ魔法教会サテライ支部の聖堂にはその地域の今月8歳の誕生日を迎える子供達が集まってきた。
辺境都市チホウからの参加者は6人で、朝早く魔法教会からの迎えの馬車に乗り2時間かけて魔法教会サテライ支部に来ていた。
当然、辺境都市チホウ以外からも集まり、合わせて45人の子供が今回「祝福の儀」を受ける。
子供達は8歳の時に「祝福の儀」を受け魔法を使っていくようになるが、受けなければ魔法が発動出来ないと言うわけではない。魔法の才ある子は見よう見まねで練習して「祝福の儀」の前に魔法を発動出来るようになる者もいる。
シュジン・コウも魔法を発動しようと火属性魔法、水属性魔法の練習を繰り返してきた。だが、火属性魔法、水属性魔法のどちらも魔法が発動する事なく「祝福の儀」の日を迎えた。
助祭を従えた司祭が現れ、これから行う「祝福の儀」について説明した。
魔法とは何か、人と魔法の在り方などについて訓示を行った。
続けて
「これから祝福の儀を行いますが最初に言っておきたい事があります」
神妙な面持ちの司祭の言葉にざわついてた子供達が静かになった。
「父親、母親が魔法を使えたからといって子供も魔法を使えるとは限りません。が、悲観する事はありません。魔法が使えなくても人はそれぞれ役割を持って生まれてきています」
司祭の訓示が終わり、「祝福の儀」が始まった。
助祭に名前を呼ばれた者が前に進み魔力石の玉に両手をかざすと魔力石の玉が光りだした。属性魔法ごとに光り、魔法のレベルに応じて明るさが変化した。
「祝福の儀」が進み、赤い髪の少年の番になった。
「あなたにはレベル2の火属性魔法とレベル1の土属性魔法の能力があります」
それを聞いて赤い髪の少年は「レベル3じゃないのか」と残念がった。
次の小柄の少年が魔力石の玉に両手をかざしたが魔法石の玉は反応しなかった。
「あなたの使える属性魔法はありませんでした。が、豊穣の女神はあなたも見守っていますよ」
それを聞いて、赤い髪の少年と取り巻きの少女が一緒に小柄の少年を煽った。どうやら同じ辺境都市の出身らしい。
「やはりお前は魔法の才能が無い''無能者''だったな。これからは逆らうんじゃ無いぞ!」
「これからも使いパシリがお似合いよ」
これはこの世界ではよく見かける光景であった。いくら司祭が平等を説いても魔法が使える者と使えない者とでは差別される。辺境都市チホウでも差別はあった。だが、辺境都市チホウ領主は子供が生まれると司祭の教えにならい魔法の能力の有無で差別しないように領民に指導してきた。
騒がしくなったので助祭達が子供らに静かにするように諌めた。
シュジン・コウは煽られた子供は可哀想に思ったが、まだその方が良いだろうとも思った。
シュジン・コウの番になった。
「あなたにはレベル3の土属性魔法の能力があります」
そうなのである。彼はいくら練習しても火属性魔法、水属性魔法を発動出来なかったのだ。ものは試しと風属性魔法、土属性魔法を練習したら土属性魔法が発動した。
(僕が使える属性魔法は''土''のみ。父さん、母さんが使える属性魔法はそれぞれ''火''、''水''。僕は父さん母さんの子供ではないのだ)
落ち込むシュジン・コウに司祭が声をかける。
「両親と異なる属性魔法が使う子供は非常に稀ですが存在します。私も2人知っています」
「私はあなたの両親、辺境都市チホウ領主の結婚式に呼ばれた事があり、両親の顔を覚えています。あなたは顔の輪郭、髪の色、口元が父君に、目の色、鼻の形が母君に似ておりますよ」
司祭は更に続けて言った。
「祖父母か曽祖父母に土魔法が使える人がいるはずだから、調べてごらんなさい。両親ではなく祖父母、曹祖父母の属性魔法を引き継ぐ子供がいます」
「司祭様、ありがとうございます。確かに父方の曽祖母が、母方の祖父が土属性魔法を使えました」
(隔世遺伝だ。そうか、やはり僕は父さん母さんの子供で間違いなんだ)
全員の「祝福の儀」が済むと「何か聞きたい事はないか」と司祭が聞いてきたので、シュジン・コウは疑問に思った事を質問した。
見ていた限りレベル4以上の属性魔法の使い手はいなく、レベル3の属性魔法を2つ使える人はいなかったので、その事を尋ねた。
「見た事も聞いた事もない」との回答であった。
「他に聞きたい事が無ければこれで儀式を終わります」
「女神のご加護があらんことを」
司祭の言葉で「祝福の儀」はお開きになった。
((あなたの生活に
頭の中に優しく慈愛に溢れた声が響いた。
◇◇◇◇◇
儀式が終わり聖堂の外に出ると帰りの馬車が複数台待機していた。
助祭の案内で辺境都市チホウに向かう馬車に乗り込んだ。全員が乗りこむと御者が馬に鞭を入れて馬車はゆっくりと動きだした。
馬車に揺られて2時間あまり、辺境都市チホウに戻った時には夕方になっていた。
邸宅に帰るとチチ・コウとハハ・コウが出迎えていた。
「父さん!母さん!」
シュジン・コウは両親の元に駆け寄り、顔をうずめた。
【続く】
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