さいなら、親知らず
鹿嶋 雲丹
第1話 親知らず姉妹との出会い
親知らず。
噂に聞くは、抜く時えらやっちゃ? 抜いたらえらやっちゃ? 状態になるそうな。
まったく、いつ生えてくるもんなのかは知らないけどよ、ま、あたしにゃ関係のない話さ。
【幻想編】
「お初にお目にかかります。私、親知らず一号と申します。住まいは右上町でございます。で、こちらは妹の親知らず二号でございます。姉妹とはいえ住まいは別々でございまして、妹は左下町におります。三号と四号は……よよよ……まことに残念ながら、産声をあげることは叶いませんでした」
「……いや、遠慮はいらんから
「そうは参りません! この世に生まれたからには、主様の支えになるのが我ら姉妹の役目でございます!」
「……いや、支えっつーかぶっちゃけ邪魔なだけだよね、
「ありがたき幸せでございます!」
【現実編】
「あー、歯医者は久しぶりみたいですけど、親知らずが虫歯になってますねー。ほら、この右上と左下にあって、他の二本は歯茎に埋まってるから大丈夫ですけどね。特に下のはね、真横に生えてるしすぐ近くに太い血管が通ってるから、うちじゃ抜けないです。痛みが出たら大学病院紹介しますからね。とりあえず虫歯の治療はしておきますけど、親知らずって痛みが出たらけっこう痛いですよ」
「……はい、わかりました」
今を遡ること約十年前、あたしは徒歩二十分圏内に歯医者が五ヶ所以上あるこの地域に引っ越してきた。
そしてわりと直ぐに、歯医者さんに行く用事ができてしまう。よくある話だ。歯の被せ物がとれてしまったのである。
さて、どこの歯医者さんに行こうかと考えるも、たいして迷わず家から一番近いところに決めてしまった。
どうせ被せもんつけてもらうだけだし。と、実に気楽な気持ちで向かったのであったが。
白黒の歯のレントゲンを前に説明されたのが、まさかの親知らずの存在だった。しかも、虫歯になってるときたもんだ。
ま、でも虫歯の処置はしてもらったし、歯磨きをちゃんとすれば、これ以上悪化しないんでしょ? 先生、心配しなくても大丈夫だよ。あたし、親知らずとは墓場までご一緒するからさ! あっはっは!
この七年後──そう、災いは忘れた頃にやってくるのである。
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