のろまで鈍臭い幼馴染が、最近なぜか可愛く見える

小狐ミナト@ダンキャン〜10月発売!

プロローグ



——最近、俺の幼馴染が可愛い。



 俺、高梨碧たかなしあおいには幼馴染がいる。

 

 その子との出会いは幼稚園生の時まで遡る。彼女は両親を亡くした関係で俺の家の隣に引っ越してきた。

 そこには彼女の祖母が住んでいてウチとは夕食に招待したりされたりするような仲だった。だから、自然と同じ歳の俺と彼女は一緒に過ごすことも多かったし、ウチの母親が彼女の祖母の代わりに彼女の面倒をみたり買い物に連れ出すこともあった。


 それから小学校・中学校、そして高校生である現在にいたるまで俺と彼女は一緒に過ごしている。


 ここまで聞くと、ただの男女の幼馴染の話だ。お互い好き同士であれば恋愛に発展するかもしれないし、甘酸っぱい話の一つや二つあると思うだろう。


——しかし、俺は彼女を全く恋愛対象として見ていない。


 俺の幼馴染・神花乃春かみはなのはるは、とても鈍臭い。


 その上、何をするにも動きがゆっくりでいわゆる「トロい」のである。良く言えばマイペース。


 その性格のせいか、よく転ぶし運動は全くと言っていいほどダメ。勉強も全く得意ではない、ゆっくり解き過ぎてテスト用紙の半分も埋まらないことがしばしばだ。

 だから、真面目に頑張っているはずの彼女は真面目じゃなかった俺と同じ高校へ行く羽目になったのだ。



「碧くん。どうしたの? ぼーっとして」


 突然、神花に話しかけられて俺はびっくりする。


「別に?」

「そうなの? 碧くん、私の方見てぼーっとしてから何か話したいことでもあるのかなぁって思ってたんだけど……」


 神花は俺を心配そうに見つめて首を傾げている。昼下がりの教室、時が止まったように感じた。雑踏は薄れ、神花以外の景色はモザイクみたいにボヤッと見えて、彼女にだけピントが合う。

 

——あれ、なんかコイツ……


神花乃春は鈍臭くてトロくて、俺の好みではなかったはずだ。けれど、なぜか今目の前にいる彼女がとても、とても


——可愛い。





*** あとがき ***


読みにきてくださってありがとうございます。

本作はのんびり糖分たっぷりラブコメです。毎朝、七時頃更新予定!


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