第11話 共鳴するダンジョン(2/2)
その直後、大五郎さんの前に白熊が出現した。
と思ったが、違った。
白熊の毛皮を頭から被った大男が立っていたのだ。大きく開いた白熊の口蓋部分から日焼けした顔が見えていて、少し薄汚れた白熊の全身毛皮を纏っていた。
その偉丈夫を大五郎さんはしげしげと見上げる。
大五郎さんがちっとも驚いていないのは、なんかやる気がなくなったところだったのと、少し酔っぱらってるからだ。
危機意識ゼロのダンジョンマスター、大清水大五郎 六十歳である。
男は周囲を見渡して、ここがどこかを見極めようとしていた。しかし目前目下で充血した眼で見つめ返す大五郎さんに気が付いて、慌てて自己紹介を始めた。
「大五郎さんですね? 私はナヌーク。自然と共に生きることを信条とする民で、北の大地のアイス・ウィスパーと呼ばれるダンジョンのマスターを務めています。私のダンジョンがこちらと互いに引き合っていたようでして、こうしてあなたのダンジョンを訪れることになりました。光栄です」
ちなみに目が充血していたのは、このあと麓で謝る光景を思い浮かべて泣きそうになってたのと、隣でまだフィリウスさんが一人エレクトリカルパレードを演じてるせいである。
大五郎さんは「おお」と少し驚きながらも歓迎の意を表明。
「ワイは大五郎や。こっちのクラゲちゃんがフィリウスはん。納屋ん中から覗いとるあそこのデカいんがドラゴンさんや。ここ以外に他のダンジョンがあるなんて知らんかったからビックリしたわ。せやけど、自然愛するダンジョンの仲間て、めっちゃ幸せなことやな。大歓迎やで。こっちこそよろしく頼むわ」
ナヌークと大五郎さんは、挨拶を交わしてすぐに意気投合してしまった。
特にナヌークは、大五郎さんのダンジョンが従来型のダンジョンと全く異なることに興味を持ち、その自然美と運営方法にとても興味を示した。
やがて自身のダンジョンについても話し始めた。
「私のダンジョン、アイス・ウィスパーは氷と雪に囲まれた極地のダンジョンです。そこでは自然と共存し、氷の魔法や温泉の力で生活を豊かにしています」
「え? お、温泉!? 温泉って言うた?」
大五郎さんが身を乗り出して食いついた。
「ナヌークはんのとこに温泉あんの?」
「ええ。地下の源泉から湯を引いてダンジョンの階層一つを丸々温泉にしています。われら一族のほか、モンスターや野生動物たちもやってきて命を温めているのです」
「めっちゃええやん! いつか行ってみたいな!」
「え? ああ、そうでしたね。大五郎さんはまだマスターになって日が浅いのでご存じないのも無理ありません。来れますよ、すぐにでも。互いのコアが共鳴してるのでコアの力を使えば私のダンジョンに飛べます。ただ残念なことにマスターしか転送できないのですが」
「ほほぉ……そうなんや。すぐワイだけで行くのもアレやし、後日ぜひお願いしたいわ。こっちもそろそろ冬やから、その前に一回仲間連れて行きたい思てんけど、ええかな?」
「お待ちください、マスター。それについては思うところがあるので後ほどわたくしが手配いたします。その前にナヌーク様、まずは母屋のほうへお越しくださいませ。大したものはありませんが軽くお酒でもご用意させていただきます」
できるクラゲ秘書のフィリウスさんは、突然の賓客ナヌークさんをおもてなしするようだ。ちなみにもう通常モードに戻っている。本日のエレクトリカルパレードは終了しました。
その後、二人は互いのダンジョンの特徴や運営方法について深く話し合う。
ナヌークは大五郎さんに氷に閉ざされた世界でのダンジョンがこれまでどうやって運営してこれたのかを語り、大五郎さんは自然と一体化するダンジョン・マイッカについて説明してこれまでのノウハウを明かした。
はい、嘘です。
大五郎さんは酒飲んでただけです。全部フィリウスさんが応対しました。
「こんなスゴい自然の力があるなんて知らんかったわ。ダンジョン、もっと進化できるかもしれん」
大五郎さんが感嘆していると、ナヌークもまた、大五郎さんのダンジョンの豊かさに驚き、自分たちのダンジョンにも取り入れたいと考え始めた。
「私たちの交流は、自然の力をより深く理解するきっかけになるでしょう。互いに学び合い、自然を守るための知恵を増やせることを楽しみにしています」
その日、大五郎さん(は殆ど聞いてるだけで、実際はフィリウスさん)は、ナヌークさんの地球魔法学の知識を聞いた。
それからフィリウスさんと長い間話し合って互いのダンジョンを訪れる転移魔方陣を完成させてしまった。
これは地球上に存在しなかった未知の魔法である。
とんでもないことであり、画期的なことだ。
こうして長い間アイス・ウィスパーという極寒の地のダンジョンたったひとつしか存在しなかった地球に、二つ目のダンジョン・マイッカができたことで一種のエポックメイキングな魔法が誕生したのである。
「素晴らしいことです。実は先ほどそちらのダンジョンのサポート用生命体さんともコンタクトできました。ともに手を携えて歩んでいくことで合意しましたよ」
こうして二つのダンジョンは、文化や技術の交流を始めることになった。
この日、夜も遅くなっていたためナヌークさんは自分のダンジョンへと帰っていった。
後日、互いに訪問団を伴って訪問しあう約束を交わして。
この出会いは、大五郎さんの生活とフィリウスさんのダンジョン運営に新たな視点をもたらしただけでなく、自然との共存についてダンジョンの可能性を考えさせる契機となった。
そして、ダンジョン・マイッカという名前が、自然と共に生きる理念とともにさらに広まっていくことになる。
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