第7話 大五郎よ、お前のせいだ


 それからしばらく大五郎さんの家で意見を交換したあと、大五郎さんと加奈子さんたちは再び納屋にやってきた。


 加奈子さん、なぜかもうすっかり現状を受け入れてしまっていた。ドラゴン見ても動揺していない。勇者属性、早くも開花か。


 納屋の中ではドラゴンがダンジョンコアを守っている。フィリウスさんがコアの傍に移動して大五郎さんに鍬を手渡した。その触手が手なのか足なのかわかんないけれど。


「マスターぁ、ダンジョンコアの設定をぉ、変更すればぁ、光の強度をぉ操作できまぁす」


 大五郎さんはフィリウスの説明に従い、鍬を設定しなおす。


 すると、納屋から放たれる光が徐々に弱まり、最後には完全に輝きが消えてしまった。


 なお、ダンジョンコアと化した鍬からは微弱な光の粒や輝きが相変わらず出ているが、夜空に浮かぶ星のような淡い輝きくらいにまで落ち着いている。


「これで少しはましになったわね。ねえ、フェリウスさん。この光は何なの?」


 加奈子さんが尋ねた。


「はぁい、加奈子様ぁ。ダンジョンコアわぁ、出現した世界にぃ、何らかの影響を与えるぅ、媒体のようなモノでぇ、その動力源でもあるのでぇす。この光はぁ、ダンジョンコアがぁ、活性化している証でぇ、周囲にエネルギーをぉ、放出していまぁす」


「光がエネルギー? その光は何かの役に立つの?」


「この光はぁ、通常ならぁ、ダンジョン内部のぉ、活性化のためのエネルギーにぃ、なるのでぇす。ですがぁ、ここではぁ、マスターの意向によりぃ、地上世界にぃダンジョン領域を広げぇ、本来の地下ダンジョンはぁ、放置されてまぁす。地上の仲間たちのぉ、生命力や地表植物の成長をぉ、促進しているほかにぃ、いくつかの防衛機能にもぉ、使用されていまぁす。マスターが元気であったりぃ、マスターの畑が豊かになるのはぁ、このエネルギーのおかげですねぇ」

 ……と、フィリウスが答えた。


「なるほどね……。で、大五郎さんは村にどう説明するつもり?」


 加奈子さんが大五郎に尋ねた。


「光もうおさまっとるし、原因わからんけどもう終わった現象やて言えばええんちゃう?」


 大五郎さんが苦し紛れの案を絞り出す。相変わらず事なかれ主義の案だけど。


「そうね。村民の不安はある程度鎮めることができるわね。問題になりそうなのは外の人たちだけど……フィリウスさんにお願いするわ。ドラゴンさん、妖精ちゃんとゴブリン君たちは外部の人に絶対に見つからないようにしてね。ナントカ障壁でしたっけ? ソレのおかげで大丈夫みたいな話だったけど油断禁物よ? 特にドラゴンさん、あなたが一番目立ちそうだから気を付けてください」


 ドラゴンは低く「了解しました、加奈子様」と応じ、ゴブリンたちも一斉に「はい!」と返事をした。


 大五郎の穴だらけでお気楽な考えを補修していく加奈子さんであった。ファンタジーさんたちも大五郎さんよりも加奈子さんに一目置いている。

 今更ですが加奈子さん、お見事です。


「それから、大五郎さん。あなたにはこの件について役場で説明してもらうわよ。原因はわからないけれど今はもう光は収まっていると話してもらえるかな。 私が先に話を通しておくから、あなたも後で役場の総務課に来てね」


 大五郎さんは渋々ながら了承した。


「ほな昼の畑仕事早よ終わらせて、麓に下りてくで」


 加奈子さんはそれを聞いて安心したように弱弱しく笑ってから、少しよろめきながら車に乗り込み帰っていった。


 気丈にしていたけど、普通の人間がモンスターを目の当たりにして平常でいられるわけがない。加奈子さんは勇者関係者というか、どうやら勇者らしいので耐えられているのだ。


 大五郎よ、お前のせいだと自覚しておくれ。


 その後、加奈子さんは「山から見えた光は原因不明だが、すでに収まっている」と村長に説明し、あとから訪ねてきた大五郎がその言葉を裏付ける説明をした。


 これにより、村民の不安と近隣市街地の小さな騒ぎは一時的に鎮火した。



 その夜、ダンジョンができてからずっとおかしなテンションで生活してきた大五郎さんは、加奈子さんに秘密を明かしたことで精神状態が安定して落ち着きを取り戻していた。


 冷静になってみれば、ダンジョンができた日からあり得ない超常現象の連続であったのにすんなり受け入れてしまったなあ、と振り返る大五郎さん。


 それどころか体調がよくなったせいか、すべて前向き肯定的になっていた気がする。


「あれ、ダンジョンマスターなんちゃうもんになった副作用なんかいな? それとも、ワイの運命なんやろか?」


 などと柄にもないことを考えてちょっぴり誇らしくなり、ニコニコして晩酌が進むのであった。


 やがて考え疲れて眠くなり、ごろりと横になった大五郎さんがいつも思うことは、毎晩同じ言葉「まぁ、ええか。」


だったという。



 一方、その夜の加奈子さん。

 自宅に帰ってきた旦那に大五郎さんの山で起きていることの真実を語った。

 一応村長なので本当のことを知らせておかないと、いざというときに対応が後手に回りかねないからだ。


 でも、本当のことを言うと、少しだけ撮影させてもらったファンタジーさんたちの姿を旦那に見せたらどんな反応するのか見たくなったのだ。


 加奈子さん、還暦過ぎても可愛いところが残っていた。

 さすが村の女性人気ランキング、マダム部門NO.1(村の婦人会調べ)である。

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