第12話 信じる力を選ぶ自由
颯太は、理性と感情の間で揺れ動く日々の中で、ついに自分の信じるものを見つけようと決意した。しかし、それは決して簡単なことではなかった。彼の前には、宗教やスピリチュアルといったさまざまな信念体系が立ちはだかり、そのどれもが彼を引き寄せようとする。それらの中から、どれを選ぶべきか——その選択が彼を悩ませ続けた。
震災を経て、颯太は自分の世界観が大きく変わったと感じていた。無情な現実を前にして、何も信じられない日々が続いた。しかし、凛との出会いを通じて、何かしらの「力」を信じることができれば、心に少しでも希望を見いだせるのではないかと思うようになった。彼が抱えているその「力」とは、目に見えるものではなく、感じるもの——それは「信じる力」だった。
だが、「信じる力」が本当に自分にとって必要なものかどうかを確信するには、いくつかの問いに答えなければならなかった。特に、宗教やスピリチュアルに触れることで、自分の理性が崩れないか、または感情に過剰に支配されないかという不安が常に付きまとった。
颯太は、一度、宗教的な集まりに参加してみることにした。彼が訪れたのは、地元の寺院だった。信者たちは、毎日の祈りを欠かさず、教えに従って生きていた。彼らの穏やかな表情や、ひとつひとつの言葉が響くような祈りの時間は、確かに魅力的だった。しかし、颯太の心の中には疑念があった。
「 これが本当に俺に必要なものなのか?」
宗教的な教えを信じることで、心の平安が得られるのかもしれない。しかし、それは果たして自分自身の意思で選んだものなのか、それとも他者に強制されたものなのか——その問いが彼を苦しめた。
次に、颯太はスピリチュアルな学びを深めようと、セミナーに参加してみた。そこでは、エネルギーや波動、宇宙の法則といった、目に見えない力について語られていた。参加者たちは、自分の内面を見つめ直し、潜在意識を活用することで人生を豊かにできると信じていた。
「これも一つの可能性なのかもしれない。」
颯太はそのセミナーに心を動かされた。しかし、やはり何かが違うと感じた。それは、過度に抽象的で、実際に手に取って感じられるものが少ないという不安だった。彼は、スピリチュアルな力を信じることが、自分の人生をどれだけ豊かにするのかを見極めることができなかった。
颯太が最も大きな気づきを得たのは、自分の内面に目を向けたときだった。信じる力とは、単に宗教やスピリチュアルを受け入れることではなく、自分自身を信じる力が根本にあるのだということ。それは、外から与えられるものではなく、自分が選び取るものなのだということを、ようやく理解し始めた。
凛の言葉が浮かぶ。
「信じる力は、外にあるのではなく、内にあるものよ。自分の力を信じることが、最も大切なの。」
その言葉に背中を押されるように、颯太は自分の心の中に芽生えた力を認めることに決めた。それは、他人の信仰や教えをただ受け入れることではなく、自分の経験を通じて築かれたものだった。彼が信じるべきなのは、自分の力と、そして他者との絆だった。
颯太は気づいた。信じる力を持つことは、他人の枠組みに縛られることではなく、自分自身を自由に信じることだということ。彼は、宗教やスピリチュアルに振り回されることなく、自分の意思で選ぶ自由を手に入れた。その自由こそが、彼の信じる力の源であると感じた。
「俺は、俺の力を信じる。そして、それをどう生かすかを選ぶ自由も、俺にあるんだ。」
颯太は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。心の中に新たな決意が芽生えた。これから先、どんな困難に直面しても、自分を信じる力を手に入れた彼は、どんな選択も恐れずに進んでいくことができる。
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