明智光秀です。異世界で僧侶として転生し勇者パーティに入りましたが、なぜか女勇者様が僕に命乞いを始めました。
零余子(ファンタジア文庫より書籍発売中)
プロローグ 勇者壊滅
先ほど魔法使いを薙ぎ払った。
今、戦士をぶっ潰した。
「次は君だよ、勇者様」
鉄杖についた血を僧侶服の袖で拭いながら、僕が言う。
僕の足元で尻もちをついている青年――これでも女神様に勇者の使命を授けられた者らしい――が、震える声で返答してくる。
「魔法使いのあいつはともかく、前衛職の戦士までをも一撃で……っ⁉ テ、テメェ本当に僧侶なのかよ⁉」
「もちろん僧侶だよ。人々の幸せのために祈り、人々の幸せのために修行する職業。人々を苦しめる魔王に挑む勇者を支えることも使命だね」
「じ、じゃあなんでテメェは俺を支えねぇどころか、俺に歯向かう? 勇者パーティに入れてくれって頼んできたのはテメェだろうが、裏切者め!」
「魔王討伐のための路銀の確保を名目に、近くの村で略奪をしようとしたからだよ。君たちの性根に愛想が尽きたから、裏切った」
僕が薄く笑えば、足元の勇者はいよいよ震えあがる。
「僕が君たちを潰すのは、善意からでもある。君たち程度が魔王に挑んだところで、返り討ちに遭うのが目に見ていたからね。無駄死にする前に潰しておいてあげるのが恩情ってもんだろう? 何せ魔王は強い。前世から強かった」
「前世……っ?」
勇者はふと気づいたようだ。
「まさか魔王は『転生者』……いや、テメェの口ぶりからするに、テメェも……!」
「ご明察」
そうだ。僕もまた、この世界にたまに現れるという転生者だ。
今の肉体は、目の前の勇者と同じ18歳。
だけど内面の練熟度合いは、前世で積んだ歳月の分だけ差がある。
そして何より。
目の前の勇者と僕の差は、戦闘経験にある。
かつての日本。血で血を洗う戦国の世。
そこで大名として立身出世をしてきた僕が、勇者の使命と女神の加護に甘えている勇者とその仲間に負けるはずがない。
「君たちの旅はここでおしまいだ。故郷で惨めに過ごしなよ、
もう十分だろう。
これ以上こいつらに時間を割くのはもったいない。
何かを――命乞いのようなものを言おうとした勇者に向けて、僕は鉄の杖を振り、勇者の旅路を閉ざす一撃を放った。
出会った町からパーティ四人で歩んだ短い旅路。
四人で足跡を刻んだ道を、今は一人で戻っていく。
「一人旅をすると、美濃を思い出す……」
そう嘯けば、僕の頭の中に前世の記憶が蘇る。
美濃国。日本にあった、小さくも豊かなあの地。
そこで旅をした僕は、あのお方と出会った。
僕が頭を下げるに値する主君。
そして、僕が命を懸けて葬るに値する敵。
あのお方を殺すために向かった本能寺。
焼け落ちていく堂に突入し、同じ炎に身を焼かれた二人。
僕がこの世界に転生している以上、あのお方もここに転生しているはずだ。
あのお方は何処におわす?
愚問。
かつて魔王を名乗ったあのお方なら、この世界でも魔王のはず。
魔王が在るべきは魔王城。そこに挑むのが勇者の使命。
だから勇者パーティに志願する。
そして魔王城に向かい、転生したあのお方と再会し、今度こそ首級を取る。
そんな僕の心の執念は、僕の口から言葉となって零れる。
「敵は魔王城にあり」
僕は僧侶。この世界での名をテンカイ。
そして前世は戦国大名・明智光秀だ。
今度こそ魔王の首級を取る。
その一心で、僕は旅路を歩み続ける。
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